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「まさか……イチが……?」
イチがこの本を読み、自分の辿る運命を知ったとしたら……。
天正十一年、北ノ庄城で柴田勝家と自害する事を知ったとしたら……。
イチの様子がおかしいことも、納得がいく。
歴史の本をデスクではなくソファーの下に隠し、デスクの抽斗に鍵を掛け、鍵はいつものようにペン立てに入れた。
イチは今夜も俺達が出掛けたと思っている。もし、この本の存在を知っているなら、必ずまた読みに書斎にくるはず。
俺は書斎のクローゼットの中に隠れ、イチの動向を確かめた。
暫くしてゆっくりとドアが開き、イチが書斎に現れた。美しい肢体を包む赤いシルクのネグリジェ。開け放たれた窓から入る夜風に、長い黒髪が揺れた。
イチは慌てて書斎の窓を閉めると直ぐさま施錠した。窓の外には無数の蝙蝠が飛び交う。
イチはホッとした表情を浮かべると、ペン立てに手を伸ばし鍵を取り出し、慣れた手つきでデスクの抽斗を開けた。
抽斗の中を探し本がない事を悟ると、全ての引き出しを開き、壁一面に並ぶ無数の本に視線を向け、必死に探している。
「イチは、悪い子だね」
「ジョエル……!?」
クローゼットを開けると、イチはその場に佇む俺を見て目を見開いた。
「何を探しているんだ?もしかして、これかな?」
俺はソファーの下に隠していた本を取り出す。
「イチ、デスクの抽斗は開けるなと言ったはずだよ」
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