81

 屋敷に戻った俺達は、食事を済ませたイチを寝室に残し、セバスティと書斎に入る。


「ジョエル様、今夜はマハラの元に一人で参ります。ジョエル様はイチ様のお傍に。イチ様が俺達をヴァンパイアだと疑っているのなら、今夜同族になさればいい」


「セバスティ!」


「はいはい、イチ様は吸血しないとおっしゃるのですね。ですが……危険でございます。イチ様は違う時代からタイムスリップしたとはいえ、人間でございます。俺達を裏切り人間の味方につくやもしれません。油断して心臓に杭を打たれるなんて、まっぴらですからね」


 セバスティは顔の前で両手をクロスし、一瞬にして大蝙蝠に変身した。俺は書斎の窓を開ける。


 窓から飛び立つ大蝙蝠は、他の蝙蝠を従えるように夜の闇に消える。


 俺はペン立てからデスクの鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。引き出しを開け、日本の歴史が書かれている本を取り出した。


 イチの住んでいた戦国の世。

 パラパラとページを捲り、俺はあることに気付く。


「ページの端が折れている……。何故だ」


 不思議に思いページを捲る。本に指を触れなくとも、眼力でページを捲る事が出来る俺達。それなのに、どのページにも指先で何度も本を捲ったような微かな形跡が残っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る