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「春乃の姉?」


 ジョエルがセバスティの腕を掴み、二人で廊下に出る。わたくしは椅子に座り、二人の背中を見つめた。


「イチ、ジョエルやセバスティのこと、変だと思わない?」


「……美薗さん」


「あの二人、陽の昇っている間バイトしてるんでしょう。本当かな?二人がこの大学に入学した頃から、野生動物の変死が増えたの。それにイチがこの大学に来てからだよね。家畜の変死が相次いだのは」


「どう言う意味でございますか?」


「書店で吸血鬼伝説の本を買ったんでしょう。イチも二人のことを疑ってるからじゃないの?吸血鬼の生態、誰かさんに似てない?イチ、気をつけた方がいいよ。ていうか、イチも仲間だったりしてね」


「美薗さん、はっきり申して下さい」


「構内で噂になってるの。ジョエルとセバスティはヴァンパイアじゃないかって。オルガが死んだ時に、牛舎の中にいた真犯人の声が、ジョエルに似ていたってホワイト牧場の牧場主が証言しているのよ」


「そんなはずはございません」


「もっと興味深いのは、戸を蹴破った時に二匹の大蝙蝠が牛舎から飛び立ったのを、数人が目撃しているの」


「大蝙蝠……」


 ジョエルとセバスティが教室に入ると、美薗は二人を避けるようにマハラの元に戻る。


 セバスティとジョエルが、ヴァンパイア?


 まさか……!?


 セバスティはわたくしには出来ない不思議な魔術が使える。


 そう言えば……

 当初『俺のいた国も戦いをしていた。人間とヴァンパイアの食うか食われるかの死闘が繰り広げられた』とジョエルは語っていた。即ちジョエルの国にはヴァンパイアが存在していたことになる。


 ジョエルとセバスティは、早朝から陽が落ちるまで仕事に出かけ、姿を見せない。


 食事時も二人はいつも赤ワインを口にするだけで、他のものを食している姿を見た事がない。


 深夜、ジョエルやセバスティが外出する時は、必ず何百匹もの蝙蝠が、屋敷の周辺の空を埋め尽くしている。


 されど……

 ジョエルは、わたくしを吸血したりはしない。


 わたくしに、優しいくちづけをするだけ。


 ――『屋敷には地下室があるはず』

 マハラと春乃の言葉を思い出し、一抹の不安が過ぎる。


 もしも、ジョエルの屋敷に地下室や棺があったなら……。


 それが意味するものは……!?

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