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「ニュースや新聞で大きく取り上げられていたから、その事件は知っている」


 セバスティが寝室のドアをノックする。


「ジョエル様、大学に参りましょう。あれ?何やら不穏な空気……。お二人ともどうされました?」


「セバスティ、あとで話すよ。イチ、大学に行こう。すぐに支度しろ」


「はい」


 身支度を整え、屋敷を出て大学に向かった。春乃の姉上のことで、ジョエルの表情は険しくなり、わたくしは少し気がかりだった。


 大学に着くと、ジョエルは春乃を呼びわたくしの借りた金子を返却してくれた。


「春乃、困っていたイチを助けてくれてありがとう。イチはお嬢様育ちで世間知らずなんだ。普段お金も持ち合わせていない。わざわざ車で屋敷まで送ってくれてありがとう」


「どういたしまして。財布も持たずに買い物だなんて、世間知らずにも程がある。ジョエルも大変ね。ジョエルとセバスティは早朝から夕方までバイトしてるの?何処でバイトしているの?」


 ジョエルの眼差しが、一瞬きつくなる。


「あらやだ。恐い顔。別に言いたくないなら話さなくていいのよ。イチ、あの本読んだの?」


「いえ、まだでございます」


「読んだら私にも貸してね。


「吸血鬼伝説?」


 ジョエルとセバスティが顔を見合せ、驚愕した表情でわたくしを見つめた。


 春乃はクスクス笑いながら、美薗の元に戻る。登校したマハラやメリッサ達と何か話しながら、こちらを見て皆で笑っていた。


 セバスティがジョエルに話しかける。


「ジョエル様、何かありましたか……?」


「昨年投身自殺したのは、春乃の姉だったんだ」

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