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「わざわざ山道を歩いて降りたのか?」
「はい。この国の金子を持っていなかったので、春乃さんからお借りしました。ジョエル、わたくしに金子をお貸し下さらぬか?国に戻れば、小判で支払うゆえ……」
「小判?金貨のことか?そんなものはいらないよ。春乃から幾ら借りたんだ?」
「千五十円でございます」
「わかった。大学に行ったら俺から返しておくよ。イチ、欲しい物があればセバスティに言うがいい。わがわざ購入しなくとも、セバスティが与えてくれる。山道を一人で外出するのは危険だ。野生動物もいるからな」
「はい」
「そうまでして欲しかった書物とは、一体何を買ったんだ?」
「……それは」
わたくしは書物の入った袋に手を伸ばす。
「俺に見せなくていいよ。イチは本が好きなんだな。それは俺からのプレゼントだ」
「はい。ありがとうございます」
「春乃はどれくらい屋敷にいたんだ?どんな話をした?」
「お茶を飲む間、春乃さんの姉上のお話を伺いました」
「春乃のお姉さん?」
「昨年の冬に……亡くなられたとか」
「昨年の冬に……?」
ジョエルは眉間に皺を刻み、何やら考え込んでいた。
「この付近の崖から、飛び降り亡くなられたそうです」
「あの……投身自殺の?」
「ジョエル?春乃さんの姉上をご存知ですか?」
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