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「毎年夏はヨーロッパに戻るって言ってたけど。夏場の日差しは強いから日本にはいられないのかも」


「それはどういう意味でございますか?」


 春乃はわたくしの質問には答えず、お茶を飲み干すと、室内を念入りに見て回った。まるで何かを探すように、食器棚の周辺や床に至るまで、壁を叩き床を鳴らし隅々まで調べている。


「あの……春乃さん?何か探し物でございますか?」


「ごめんなさい。気を悪くしないで。地下室の入り口は隠し扉になってる事が多いのよ。そろそろ陽が落ちるわね。私はこれで失礼するわ。イチ、大学で逢いましょう」


「……はい。車で送って下さりありがとうごさいました。あの……書物の金子は……」


「お金はいつでもいいから、気にしないで」


 春乃を見送り、私は二階に上がる。吸血鬼伝説の書物を袋に入れたままベッドの上に置き、窓の外を眺めながらジョエルの帰りを待った。


「イチ、何をしている?」


 突然背後から声を掛けられ、わたくしの体は小さく飛び跳ねた。


「……ジョエル。お帰りなさい。いつお戻りに?」


 窓の外はすでに日が落ち薄暗いが、ジョエルとセバスティの帰宅に気付かなかったとは……。


「ダイニングテーブルの上に、湯呑みが二つあった。誰か来たのか?」


「す、すみません。すぐに片付けます」


 立ち上がると、ジョエルに手首を掴まれた。あまりの強さに、手首に痛みが走る。


「イチ?俺の質問に答えろ」


「……春乃さんにお茶をお出ししたのです」


「春乃が?どうしてここに?」


「書物を求めて町に行き、春乃さんに偶然逢って、屋敷まで車で送っていただきました」


「書物?」


 ジョエルはベッドの上に視線を向けた。



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