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 春乃は車のアクセルを踏み込む。大きく車が揺れ、座席の上で体が飛び跳ねた。


「私が知りたいのは……ジョエル」


「ジョエルでございますか?」


 車は山頂にあるジョエルの屋敷に着いた。春乃は車を停止させ、エンジンを切る。


「イチ、屋敷にお邪魔してもいい?」


「ジョエルもセバスティも仕事でおりませぬが、それでもよければ」


「ジョエルもセバスティも仕事?あの二人、アルバイトしていたんだ」


「はい。早朝より出掛け、陽の沈むまで戻りませぬ」


「そう。日没まで時間はあるわ。お邪魔するわね」


 わたくしはドアの鍵を開け、春乃を屋敷の中に招き入れる。


「凄い。全て輸入家具ね。ジョエルの祖国はヨーロッパだったかしら?」


「はい。春乃さん、お茶を入れますね」


「ありがとう」


 春乃は屋敷の輸入家具や、天井にぶら下がる豪華なシャンデリアを珍しそうに眺め、広いダイニングテーブルの椅子に座る。


 わたくしはキッチンでお茶を入れ、春乃に差し出す。


「セバスティが不在なので、お茶しか出せませぬが、お口に合うかどうか……」


「イチではなく、セバスティが家事をしているの?」


「はい。さようでございます。セバスティの用意する料理はどれも美味びみでございます」


「ふーん。あのセバスティが家事をねぇ。ジョエルとセバスティは主従関係なのかな。ねぇ、イチ。実はね、全身の血を抜かれて死んだのは、仔牛や仔豚だけじゃないのよ」


「えっ……?」


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