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「イチ、ジョエルの屋敷から一人で来たの?」


「……はい」


「やだ、まさか歩いて山を降りたの?」


「……はい」


「あの山道をよく歩いたわね。でも、吸血鬼伝説だなんて。どうしたのよ?」


「ちょっと気になって……」


「美薗の話を真に受けてるの?仔牛や仔豚の死が吸血鬼の仕業だと思っているの?」


「それがわからないゆえ、吸血鬼のことを知りたくて……」


「ふーん。イチ送ってあげるよ。私、車なんだ。ジョエルの屋敷ならわかるから。イチ乗りなよ」


 春乃は本屋の前に停めた白い軽自動車に乗るように促した。わたくしは春乃の言葉に甘えて、車の助手席に乗り込む。


 春乃の車は山道を走る度にガタガタと上下に大きく揺れた。


「確か、この道を真っ直ぐだったよね。今にも野生動物が出そうな山奥ね。熊とか狼とか恐くなかったの?よく歩いて降りたわね」


「山道には慣れておりますゆえ。馬があれば良かったのですが……」


「馬?イチは乗馬が出来るの?凄いわね」


「はい。平生は籠で出かけますが、以前は兄上と馬に乗り山を走ることもありました」


「籠?馬で山を走るの?乗馬クラブじゃないんだ。生まれは酪農家?イチは面白いね。乗り物は車ではなくカボチャの馬車だなんて言わないでよ。童話じゃないんだから」


 カボチャの馬車とは何ぞや?

 南瓜で馬車が作れるのだろうか?

 この世の文明は、なんと不思議な……。


「春乃さんは、わたくしのことを嫌わないのですか?大学でわたくしは皆に嫌われております」


「嫌う?マハラのことかしら?私はイチが誰と付き合おうが関係ない。ただ……」


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