市side

71

 朝、重い瞼を開くとベッドの中にジョエルの姿はなかった。


 ここ数日、昼間だけではなく、夜もジョエルはいない。


 今日も陽が沈むまでジョエルは屋敷には戻らない。


「わたくしは、まるで……籠の鳥じゃ……」


 身支度を整え屋敷の外に出た。朝陽が昇り、清々しい朝。ずっと屋敷の中にいることが苦痛になり、わたくしはジョエルのいいつけを破り歩いて山道を降りる。


 海に通じる脇道を降りると、浜辺へと辿り着いた。浜辺では老人が、魚を獲る網を修繕していた。


「おはようございます」


「おはようさん。お嬢さん見掛けない顔だべな」


「はい、ジョエルの屋敷にお世話になってます」


「ジョエル?外人さんだべ?しばれるから、焚き火にあたるがええ」


「ありがとうございます。お婆さん、この辺りに書物を扱う店はありますか?」


「書物?本屋だべ?この道を真っ直ぐえぐと小さな商店街に出るべさ」


「ありがとうございます」


 わたくしはお婆さんに教えてもらった道を進む。暫くして賑やかな通りに出くわし、見るもの全てが珍しく、わたくしはワクワクしながら商店街を歩いた。


 衣類の店や八百屋、魚屋、肉屋が連なり、わたくしの住む城下町とは異なり、品物も豊富で見たこともない果物や肉が並んでいた。


 もの珍しくて、店に立ち寄っては商品を眺めるが、どの店主も愛想がいい。


 書物の店はどこにあるのだろう……。



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