70

 寝室を出た俺はリビングに入り、暖炉の奥にある隠し扉を開けた。


 地下に通じる階段を降りると、セバスティが俺を待っていた。


「ジョエル様、陽が昇る寸前ですよ。危ないことはお止め下さい」


「わかっている。イチが泣いていたんだ。ほっておけなくて……」


「ご自分のことをわかっておいでですか?俺達はヴァンパイアなのですよ。太陽の光を浴びるとどうなるか、ご存知でしょう。そんなにイチ様が心配なら、吸血してヴァンパイアにしてしまえばいい。そうすれば、永遠に一緒にいられます。ジョエル様が出来ないなら、俺がこの手でイチ様を……」


 セバスティが「カーッ」と口を開け、牙を見せる。


「よせ、セバスティ。イチに手を出したら、この俺が許さないからな」


「はいはい。わかっておりますよ。でも、何故イチ様は泣かれていたのでしょう?寂しかったのでしょうか?ジョエル様が恋しくて泣かれていたとか?人間を本気にさせるとは、流石ジョエル様でございますね。亡き公爵様も沢山の人間を泣かせてこられました。血は争えませんね」


「こらセバスティ、俺をからかうな。俺は父とは違う」


 俺達は地下室に置かれた黒い棺を開け中に入る。イチの涙の理由がわからず、俺は棺の中でなかなか眠りにつく事が出来なかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る