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 天正元年に自害したのは、浅井長政殿とそのお父上。わたくしは三人の娘と共に助けだされ、兄上の庇護のもと清洲城にて九年の時を過ごす。


 そして“天正十年、柴田勝家殿と再婚”。織田信長没後、豊臣秀吉に兵を上げたが……。


「な、なんと……」


 わたくしはヘナヘナと床に崩れ落ちた。


 二度の結婚。

 そして……二度の敗北。


 “天正十一年、市は柴田勝家殿と、北ノ庄城で自害”……。


「このような書物は、織田を撹乱する紛い物じゃ……」


 兄上が浅井長政殿を討ち、このわたくしを柴田勝家殿に嫁がせるはずはない。


 ――『吸血鬼伝説を知っているか?』


 ふとマハラの言葉を思い出し、棚に並ぶ沢山の書物を片っ端から取り出し、パラパラとページを捲った。


 だが吸血鬼に関する事が書かれた書物は、一冊もなかった。


 書斎の窓から外を見ると、今宵も不気味な蝙蝠が夜空を飛び交う。


「わたくしは……なぜここに来たのじゃ。なぜ……ここで……のうのうと生きておるのじゃ。なぜ……」


 あの書物に書かれたことが真実であるならば、戦国の世に翻弄されたわたくしが、まだ見ぬ我が子を残し自害することになっている。


 わたくしや兄上の行く末を予言した不吉な書物。何が真実なのかわからず、混乱し涙が止めどなく溢れ、頬を濡らした。



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