市side

64

 わたくしは子豚の死骸を注意深く見つめる。

 首には二つの鋭い牙の痕があり、警察の調べによると過去の事件同様、体の血液が全て抜き取られていた。


「イチ、凄いね。死骸にそんなに近付いて薄気味悪くないの?」


「……家畜が殺されるようになったのは、いつ頃からでございますか?」


「獣の死骸は去年の冬あたりから、山中で頻繁に発見されるようになったんだよ。家畜は最近だよね。野性の動物が減ったのかな」


「……そうでございますか」


 去年の冬……。

 わたくしがこの地に来る以前から、このような残忍なことが……。


「美薗さん。つかぬ事を伺いますが、今は永禄何年でございますか?」


「永禄?やだな、なにそれ?今は平成だよ。ニ千十二年。永禄って、いつの時代よ。イチは変わってるわね。それとも超天然なの?」


「今は平成の世……」


 ニ千十二年……!?


 わたくしは……

 違う時代に迷い込んでいる!?


 これは……

 夢……?


 これは……

 幻……?


「イチ」


 背後からジョエルに肩を叩かれ、思わずビクンと体が跳ねた。


「何を驚いてるの?」


「何でもございませぬ」


「男子学生は、ちょっと集まってくれ。オルガのことで、警察が事情聴取したいそうだ」


 ジョエルとセバスティは、教授に呼ばれ警察官の元に行く。勿論マハラや他の男子学生も同じように聴取を受けた。


「イチは魅惑的な唇をしているわね。色も形もセクシー。それどこの口紅?艶々して綺麗ね」


 メリッサが私に声を掛けた。メリッサはキラキラと光る赤い口紅に、爪も赤く染めてている。隣にいるルーシーも同色だ。


「わたくしは紅はさしておりませぬ」


「嘘、口紅つけてないの?その魅惑的な唇に毎日キスできるなんて、ジョエルもさぞ満足でしょうね」


「えっ……」


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