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「冗談でしょう。そんなこと、新聞には書いてなかったよ」


「複数の声がしたが、牛舎の戸を蹴破ると、そこにはオルガしかいなかった。新聞には載っていないが、警察は複数犯の犯行を疑い、鑑識班が秘かに調べているらしい」


「やだ、薄気味悪いな」


「吸血鬼伝説は、現代の世にもあり得るのかも」


「マハラ、怖いこと言わないで」


 甘えるようにマハラにすがりつく美薗。その頬にマハラは熱いキスをする。だが、その視線はイチに向けられたままだ。


「大丈夫、俺が真犯人を暴いてやる。イチ、おはよう。昨夜はよく眠れた?」


 イチは顔を強張らせ、俺の背中に隠れた。俺はマハラを睨みつける。


「マハラ、イチに二度と手を出すな」


「おぉ怖い。頼むから俺に喰いつかないでくれよな」


 挑発的な言葉に、セバスティがマハラに詰め寄る。


「マハラ、もう一度言ってみろ!」


「何度でも言ってやるさ」


 教室が険悪な雰囲気に包まれる。その時、教室に春乃が駆け込んだ。息を切らし、怯えた眼差しで興奮気味に叫んだ。


「大変よ、仔豚が……また殺られたって、先生達が騒いでる!」


「仔豚?」


 俺とセバスティは顔を見合せる。オルガはもう死んでいる。だとしたら、犯人は一人しかいない。


 それは……。


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