ジョエルside

60

 イチの様子が気になり、俺は書斎に入る。デスクの抽斗に手を掛けると、鍵は掛かっていて、ホッと胸を撫で下ろす。


 デスクの上には、ヨーロッパの歴史が書かれた本が開かれたままだ。


「片付けてないのか。しょうがないな」


 分厚い本を閉じ本棚に戻す。


「ジョエル様、これを見て下さい」


「セバスティ、どうした?」


 セバスティの手には新聞が握られていた。セバスティは机の上に新聞を広げ、小さな記事を指差す。


 その記事にはオルガのことが書かれていた。


【連続家畜殺しの犯人、逃走中に事故死】


「……オルガが死んだのか?」


「そうみたいですね。オルガはヴァンパイアではなかった。きっと無罪だったのでしょう。だとしたら、やはりマハラが一番疑わしい……。イチ様の首筋に吸血の痕はございませんでしたか?」


「イチの首筋に吸血の痕はなかった。それに……」


「それに?」


「イチは……無垢だった」


「それはそれは。マハラがヴァンパイアだとしたら、再びイチ様を狙うはずです。イチ様を大学に連れて行くのは危険かと」


「いや、大学に連れて行く。ここに一人で残しておくことの方が危険だ。イチは俺の傍から、片時も離さないよ」


「畏まりました。ジョエル様がそう仰るのなら、このセバスティが命をかけてイチ様をお守り致します」


 俺達は身支度を整え、三人で屋敷を出た。バイクを走らせ大学に行くと、オルガのことで構内は騒然としていた。


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