red 5

市side

56

「……ジョエル」


 ジョエルが屋敷から立ち去る夢を見たわたくしは、ジョエルの名を呼びながら悪夢から目覚めた。


 ベッドの上にジョエルの姿はない。赤いシーツで素肌を包み、窓のカーテンを開く。


 深夜マハラの屋敷に行き、ジョエルの真実を聞き出すためにワインを飲み干し、突如眠気に襲われた。


 そのあと……

 自分の身に何が起こったのか、覚えてはいない。


 覚えているのは……

 ジョエルがわたくしをマハラの屋敷から救い出してくれたこと。


 そのあと……

 ジョエルとともに屋敷に戻り……


 わたくしはこのベッドで、ジョエルと契りを交わした。


 浅井長政殿の元に嫁ぐ身でありながら、わたくしは……ジョエルに身を委ねた……。


 幸せなひとときは……

 兄上との決別をも意味する。


「もう兄上の元には戻れぬ……」


 兄上にこのことが知れれば、ジョエルはきっと殺されてしまう。


 ジョエルに危険が及ぶくらいなら、いっそこの国でジョエルと生涯を添え遂げたい……。


「ジョエル……」


 戦国の世の婚儀に、愛というものなど存在しないと思っていた。兄上のためなら、望まぬ婚儀も受け入れるつもりだった。


 されど……

 ジョエルのことを知れば知るほど、わたくしはジョエルに惹かれていく……。


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