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 オルガはどうして俺達のように姿を変えない。


 大蝙蝠や鼠に変身すれば、意図も簡単に逃げられるはず。


 周辺の住人も加わり暴動と化した人間達は、オルガを追い詰め、かまなたの凶器を振り上げた。


 追い詰められたオルガは、道路に飛び出す。オルガの体が後方から来たトラックのヘッドライトに照らされた。


 暗闇に浮かび上がると同時に、その体はトラックに接触し大きく跳ね飛ばされ、数メートル前方に飛んだ。


 トラックにより裂傷を負ったオルガの体から鮮血が飛び散る。地面に激しく叩きつけられたオルガの体はピクピクと痙攣し、血溜まりの中でやがて動かなくなった。


 オルガは……

 永遠の命を持つヴァンパイアではなく、人間だった……。


「なんということだ……」


 屋敷に戻った俺達は、オルガがヴァンパイアでなかった事に愕然とする。


「ジョエル様。一連の事件が、オルガの仕業でないとしたら……」


「この地に、ヴァンパイアが他にいると言うのか?」


「はい。あの大学に俺達以外のヴァンパイアが潜んでいることは確実です」


 俺は二階に上がり寝室に入る。寝室にイチの姿はなくベッドに温もりも残っていない。胸騒ぎがした俺は、階段を駆け降りイチの名を叫ぶ。


「イチ、イチー!」


「ジョエル様、どうされました?」

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