49

「イチ、ソファーに座って」


「……誰もいないのですか?」


「みんな他の部屋にいるよ。心配しないで」


 屋敷の中は静まり返り、パーティーの最中とは思えない。マハラはワイングラスに赤ワインを注ぎ、わたくしに差し出した。


「わたくしは……お酒は嗜みませぬ」


「一杯だけいいだろう?イチと乾杯したいんだ」


「マハラ、ジョエルの真実とやらをお聞かせ下さい」


「イチ、乾杯が先だよ。それがすんだら教えてあげるよ」


「本当でございますね?」


「俺達の夜に、乾杯」


 マハラはグラスを傾け、わたくしの手にしていたグラスと合わせた。グラスの中の赤ワインが照明の下でユラユラと揺れる。


 いつもジョエルやセバスティが飲んでいるワインと同じ色……。


 ワイングラスを口に近付け、グイッと飲み干す。口の中に甘くほろ苦い、お酒の味が広がる。


「いい飲みっぷりだね。イチは本当に美しい。こんなに美しい女は、この地に来て初めて見たよ」


 マハラは空になったグラスに赤ワインを注ぐ。


「マハラ、ジョエルの真実を教えて下さい」


「ジョエルのことが、そんなに知りたいのか?もう一杯飲んだら教えてやるよ」


「……はい」


 わたくしは両手でグラスを持ち、一息に飲み干す。


「イチはいい子だ。では教えてやろう。ジョエルとセバスティは……」


「……は……い」


 急にクラクラと目眩がした。

 室内もマハラの顔も歪んで見えた。


 異変を察し立ち上がろうとしたが、足が思うように動かない。


「……マハラ」


 意識が遠退く中……

 ぼやけた視界に映ったのは……


 不気味に微笑む、マハラの顔だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る