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「イチ、ソファーに座って」
「……誰もいないのですか?」
「みんな他の部屋にいるよ。心配しないで」
屋敷の中は静まり返り、パーティーの最中とは思えない。マハラはワイングラスに赤ワインを注ぎ、わたくしに差し出した。
「わたくしは……お酒は嗜みませぬ」
「一杯だけいいだろう?イチと乾杯したいんだ」
「マハラ、ジョエルの真実とやらをお聞かせ下さい」
「イチ、乾杯が先だよ。それがすんだら教えてあげるよ」
「本当でございますね?」
「俺達の夜に、乾杯」
マハラはグラスを傾け、わたくしの手にしていたグラスと合わせた。グラスの中の赤ワインが照明の下でユラユラと揺れる。
いつもジョエルやセバスティが飲んでいるワインと同じ色……。
ワイングラスを口に近付け、グイッと飲み干す。口の中に甘くほろ苦い、お酒の味が広がる。
「いい飲みっぷりだね。イチは本当に美しい。こんなに美しい女は、この地に来て初めて見たよ」
マハラは空になったグラスに赤ワインを注ぐ。
「マハラ、ジョエルの真実を教えて下さい」
「ジョエルのことが、そんなに知りたいのか?もう一杯飲んだら教えてやるよ」
「……はい」
わたくしは両手でグラスを持ち、一息に飲み干す。
「イチはいい子だ。では教えてやろう。ジョエルとセバスティは……」
「……は……い」
急にクラクラと目眩がした。
室内もマハラの顔も歪んで見えた。
異変を察し立ち上がろうとしたが、足が思うように動かない。
「……マハラ」
意識が遠退く中……
ぼやけた視界に映ったのは……
不気味に微笑む、マハラの顔だった。
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