48

 ドアを開け外に出ると寒さが肌に凍みる。


「イチ、おいで」


 運転席にはマハラ。車には他に誰も乗っていなかった。


「マハラ、みんなは?」


「もう屋敷でパーティーをしているよ。イチ、さぁおいで」


 車に乗り込むと、マハラは笑顔で車を発進させた。ジョエルの屋敷から二十分くらいの距離に、マハラの屋敷はあった。


 山中に聳え立つ屋敷。外壁は黒い煉瓦、棘のある木のツルが煉瓦の壁を這うように囲っている。ジョエルの屋敷とは雰囲気が異なり、不気味な印象がした。


「さあ、おいで」


 マハラに手を取られ、車から降りる。


 黒塗りの木製のドアを開き屋敷の中に入ると、玄関の天井には大きなシャンデリア。照明は薄暗く、歩く度に床はギシギシと音を鳴らした。


「驚いた?古い建物だからね。でもアンティーク調でお洒落だろ?お祖父様が中世のヨーロッパが好きで、古い家具を集めたんだよ」


「お祖父様と一緒に住んでいるのですか?」


「いや、もう亡くなったけどね」


 玄関の壁には、老人の肖像画が飾られていた。髪は肩まであり白髪。書物で見た貴族や伯爵のような、高貴な衣装を身につけていた。


「ご病気で亡くなられたのですか?」


 マハラはわたくしの質問には答えず、リビングに案内した。


 広いリビングには色鮮やかな赤いソファー。屋敷の外観や部屋の色調は黒なのに、そこだけが奇抜で異質に感じられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る