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「では、なぜ俺を拒む」


「ご自分の胸に手を当てればわかること」


「何のことだ?」


「ジョエルもセバスティも、夜な夜な沢山のおなごが待っておいでなのでしょう。戦国の世も今も同じじゃ」


 この国も正室以外に側室を持つ戦国の殿方と同じ。されどわたくしは、大勢のおなごの中の一人にはなりとうはない。


 ――トントンとドアがノックされ、廊下でセバスティの声がした。


「お取り込み中申し訳ございませんが、ジョエル様もうそろそろ出掛る時刻でございます」


 ジョエルはわたくしから離れ、ベッドから降り立ち上がる。


 寂しげな目でわたくしを見つめ、黙って部屋を出て行った。


 数分後、ベッドの中から夜空を見上げると、数百匹の蝙蝠が一斉に飛び立ち、黄色い月をも隠す。


 その不気味な光景は、この屋敷に来た時より毎夜繰り返されている。


 屋敷の敷地にはバイクが二台並んでいた。

 

 二人はこの暗い夜道を歩いて出掛けたのだろうか?


 ジョエルとセバスティが外出し、わたくしは深夜零時になるのをじっと待った。謎多き二人の真実を知るためだ。


 ――深夜零時……。

 外で車の音がし、屋敷の前に赤いポルシェが停まった。


 わたくしはジョエルやセバスティが帰宅していない事を確認し、赤いドレスの上に薄手の白いコートを羽織り玄関に向かった。

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