46

「わたくしを子供扱いしないで下さい」


「わかっているならいい。イチ、何を怒ってるんだ?随分ご機嫌斜めだな?」


「そのようなことは……」


「そうか?」


 ジョエルはニヤリと笑うと、わたくしの唇を奪おうとした。わたくしは咄嗟に顔を背ける。


 マハラから不意に口吻をされたことが、後ろめたくて動揺を隠せない。


「イチ?」


「大学で……そのようなことは困ります」


「なるほど。ならばさっさと帰宅しよう。その花の蕾のように愛らしい唇を、屋敷で存分に堪能するよ」


 ジョエルは意地悪な笑みを浮かべる。

 わたくしは無言でセバスティから受け取ったヘルメットを被り、バイクに跨がる。


 ジョエルはわたくしの態度を不審に思っている様子だったが、それ以上は聞かなかった。


 ――屋敷に戻ったわたくしはジョエルと視線を合わせることが出来ず、早々に夕食を済ませ寝室に入る。


 ジョエルはわたくしの傍にくると、右手でわたくしの長い髪を掻きあげ、首筋の刻印に舌を這わせた。


「……ぁっ」


「俺のキスを拒んだ罰だ」


 ドスンとベッドに押し倒され、強引に唇を奪われた。


「ジョエル、やめて下さい」


「イチ、何故そんな悲しい目をしている。イチ……?」


「わたくしは……ジョエルのことを想ってはいけないのです」


「浅井長政がいるからか?それとも信長が怖いのか?」


「……そうではありませぬ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る