市side

43

「イチはウブね」


「ウブとはどういう意味でございますか?」


「純情って意味よ。ねぇイチ、吸血鬼伝説信じる?」


「吸血鬼伝説?」


「近隣の村で、今噂になってるの。この大学に吸血鬼が潜んでいるって」


「この大学に?まさか……」


「殺された家畜は病死ではなく、失血死。死骸に共通しているのは首に残る二つの傷痕があるだけ。全身の血は抜かれていたの。動物の生き血欲しさに、人間が注射器で抜き取ったとしたら、狂気に満ちている。これって、どう考えてもヴァンパイアの仕業でしょう?映画では、ヴァンパイアは人間の生き血を吸うんだけどね」


「……人間の生き血!?」


「首筋に二つの傷があれば、ヴァンパイアに吸血され、その者も吸血鬼になったって証拠よ」


「首筋……」


 わたくしは思わず首筋に手を当てる。


「やだ、イチ何を隠したのよ?またジョエルに吸い付かれたの?ラブラブなんだから」


「ち、違います」


 本当は……

 昨夜もジョエルに、首筋に刻印をつけられた。


 刻印が消えかかると、ジョエルはわたくしの体に新たな刻印を残す。


『これは、俺の印。イチが俺のものだと言う印だ』


 わたくしの首筋に唇を寄せ、熱き口吻をする。チクリと痛む首筋、それと同様に心もチクリと痛む。


 許嫁がいながら、殿方とこのようなことをしているわたくしは、兄上や浅井長政殿に顔向けが出来ない。


 けれど、ジョエルに口吻されると、体は火がついたように火照り熱を帯びる。



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