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「美薗さん、何を読んでいるのですか?」
イチが興味深げに、女子に近付いた。
「来月公開のヴァンパイアの映画があるの。こんな時でしょう、みんな興味津々で。主役のドラクエアって俳優、厚い胸板でワイルドなんだよ。ほら、腹筋が割れてて、超かっこよくない?」
美薗の手には上半身裸の男の写真。その逞しい裸体にイチは耳たぶまで赤く染め両手で顔を隠す。
「やだ、イチったら可愛い。毎日ジョエルの裸を見ているくせに。それともジョエルは痩せているから魅力に欠けるとか?」
「こら、美薗。俺が魅力に欠けるって?俺の腹筋がどうなっているのか、ここで脱いで見せようか?」
「きゃー!ジョエル見せて、見せて!」
美薗の黄色い声に、俺は溜め息を吐く。
「やめた。お前には見せないよ」
「なんだつまんない。ジョエル、イチには見せるの?」
「美薗、イチの前で卑猥な妄想はやめろ」
「やだぁ、図星なんだ」
「きゃあきゃあ」騒ぐ女子を尻目に、マハラはメリッサやルーシーを両脇にはべらせイチャイチャしている。
時折二人とキスを交わすマハラ。教室でよくやるよ。
俺は呆れながら、セバスティの元に行く。
「セバスティ、オルガは?」
「牛舎の前から離れません。さっき教授に仔牛の飼育場所を聞いていたようです。構内の家畜が頻繁に獣の被害にあうため、仔牛は近隣の牧場に預けたみたいです」
「近隣の牧場?」
「ホワイト牧場ですよ。あそこはオルガのホームステイ先の牧場と近い」
「必ず、ヤツは動く」
「今夜もオルガを見張ります。きっとヤツはホワイト牧場に現れるはず」
「セバスティ、今夜は俺も行くよ。オルガは人間を襲うかもしれない」
血に餓えた吸血鬼。
新鮮な仔牛の血を狙うに決まっている。それが叶わなければ、人間を襲うかもしれない。
この国で、ヴァンパイアを増やしてはならない。俺達は時空を超えやって来たのだから。
授業の始まる数秒前、オルガが教室に飛び込む。黙って椅子に座り、オルガはジッと一人の女子を見つめた。
オルガの鋭い視線の先で、微笑んでいたのは……
――イチ……。
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