ジョエルside

41

 バイクを走らせ大学に行くと、牛舎の中をオルガが覗き込んでいた。


「オルガ、何をしている」


 オルガは俺の声に、ビクッと体を震わせた。


「なんだジョエルか。昨日生まれた仔牛を他の場所に移したようだな。お前何処に移したか知ってるか?」


「知らないよ。仔牛が気になるのか」


「俺が気にしてるのは吸血鬼伝説だよ。これ以上家畜を犠牲にしたくないからな」


 セバスティがフンと鼻で笑う。


「お前が近付かなければ、仔牛が命を落とすこともないだろう」


「何のことだ」


「別に。教室に行くぞイチ」


「……はい」


 牛舎の前にオルガを残し、俺達は教室に入る。イチが小声で俺を窘めた。


「ジョエル、どうしてあのようなことを申すのですか?オルガに失礼ではありませぬか」


「イチは気にしなくていいんだよ」


「されど……、あれではまるでオルガが仔牛を殺めたような口調でございました」


 そうとしか思えないのだから、しかたがない。


 教室では女子が一冊の本を覗き込み、キャーキャーと騒いでいた。美薗が顔を上げ、イチを手招きする。


「イチ、ジョエルにばかりくっついてないで、こっちにおいでよ」


 イチは俺をチラッと見上げる。俺は『行けよ』と言わんばかりに、視線を女子に向けた。

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