38

 イチを寝室に戻し、俺は日本の歴史が書かれている本をデスクの抽斗ひきだしに入れ鍵を掛けた。その鍵を机の上に置いてあるペン立ての中に入れる。


 イチに自分の辿る運命を、見せたくなかったから。


 ずっとこの地にいさえすれば、イチは戦国の世で、悲しい運命に翻弄されなくてもすむ。


 そして俺達もこの国にいれば、死の危険に曝されることもないはずだ。


 ◇


 ――翌朝、陽が昇る前に俺は寝室を出た。イチはベッドの中でぐっすり眠っていた。


 寝室を出ると、隣室のドアが開きセバスティが姿を見せた。


「セバスティ、オルガは?」


「オルガは昨夜部屋から一歩も外出しませんでした」


「外出しなかった?」


「はい、蝙蝠や鼠に姿を変えた様子もありませんでした。昨夜は家畜の被害もなかったようです」


「そうか……」


「暫くオルガを見張ります。奴以外考えられませんからね」


「そうだな」


 俺達はリビングに入り、暖炉の奥にある隠しボタンに触れる。


 ボタンを押すと、暖炉の奥の扉が開き、地下へ続く階段が現れた。


 俺達は階段を降りると、再びボタンを押し暖炉の隠し扉を閉めた。


 灯りなどない暗黒の世界。

 俺達の瞳が赤く光る。


 長い廊下を進むと、その先には黒い棺が二つ並ぶ。俺達は棺の扉を開き、中に入り眠りについた。


 太陽の日が沈むまで、俺達は毎日ここで眠りにつく。太陽の光が差し込まない、じめじめとした暗黒の世界で……。


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