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市side

39

 朝目覚めると、ジョエルはベッドの中には居なかった。


 毎日早朝より仕事に出掛けるとは、どの国も殿方は大変じゃ。


 いつものように屋敷の掃除をしていると、ジョエルの書斎に視線が向く。


 掃除だけでは時間が潰せず、かねてより気になっていたジョエルの書斎に並ぶ書物が読みたくなった。


 ――『リビングルームとダイニングルーム、寝室以外の部屋には勝手に立ち入らないこと』


 ジョエルとそう約束はしたけれど、昨夜書斎に入ったこともあり、掃除がてら書物を見ても叱らないだろう。


 書斎のドアを開けると、壁一面に整然と並ぶ書物。日本語で書かれたもの、異国の言語で書かれたもの。小説、文学書、歴史、地理、宗教、様々な表記の書物が並び、わたくしには初めて目にするものばかりだった。


 異国の言語は勿論のこと、日本語で書かれた書物にも、わたくしには読めない漢字が並んでいる。


「なんと書かれているのか、ほんに興味深い」


 綺麗な絵が載っている書物もあり、その美しい色彩に心まで奪われそうになる。


 読みふけっているうちに多くの時間を費やし、壁に掛かっている鳩時計の音に、思わず我に返った。


「いけない。掃除をせねば……」


 机の上を拭き、机の抽斗ひきだしに手を掛けたが鍵が掛かっていて開かなかった。


 夕方までジョエルの書斎で過ごし、日が落ちるのを確認し、読みかけの書物を棚に収め、寝室に戻り大学へ行く支度を整えた。


「イチ、イチ」


 ジョエルの声に、わたくしは慌てて寝室を出た。

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