35

「イチ、何をしている?」


 マハラがイチの腰に手を回し、体を引き寄せる。首筋に唇を近づけ匂いを嗅ぎ、ニヤリと口角を引き上げた。


「マハラ、イチから離れろ!」


「おい、ジョエル。イチはジョエルとは単なる同居人だと言っている。だとしたら、イチが誰と付き合っても関係ないだろう」


「マハラ、イチから離れろと言っているのが聞こえないのか!」


「イチの美しい黒髪を、ベッドの上で乱してみたいものだ」


 マハラが指を伸ばしイチの黒髪に触れた。俺は思わずマハラに掴みかかる。


 マハラは両手を上げ、『降参』と言わんばかりに苦笑した。


「ジョエル、乱暴なことをしてはなりませぬ」


 イチは俺を見つめ窘める。


「イチ、こっちにおいで」


「……はい」


 イチの手を乱暴に掴み、席に座らせた。


「どういうつもりだ?」


「マハラに話し掛けられたのです……」


「男に話し掛けられたら、イチは誰にでも靡くのか?」


「無礼な……、わたくしはそのようなふしだらなおなごではありませぬ」


「ジョエル何を揉めてるの?イチの首筋にキスマークをつけるなんて、その方が十分ふしだらだよ。デリカシーがないんだから」


 俺達の会話に美薗が割り込み、イチの首筋についたキスマークをからかう。


 イチは真っ赤になりながら、両手で顔を隠した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る