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 赤い血が流れ落ち、地面に赤い斑点が出来た。セバスティは「あー……」と、失意の声を漏らす。


「消毒液と絆創膏ですね。こんなにも新鮮で美しい血を、むざむざと地面に落とすなんて勿体ない。土にくれてやるくらいなら、舐めてしまえば宜しいのに」


「セバスティ!」


 セバスティは口をねじ曲げ室内に入り、消毒液と絆創膏を持ち寄り、わたくしの傷の手当てをしてくれた。


「セバスティ、ありがとう」


「いえいえ、どう致しまして。ご希望とあらばこの口で止血して差し上げたのに。誠に残念です」


「セバスティ!」


 何故かジョエルは不機嫌で、ずっと怒っている。その様子を楽しむかのようにセバスティはニヤリと口角を引き上げ、ペロリと舌を出す。セバスティの八重歯が鋭い牙のように光って見えた。


「二人とも、お仕事は何をされているのですか?」


「アルバイトだよ。イチは気にしなくていい。大学に行く支度はしてあるのか?イチ、ドレスではダメだよ。セーターで胸元を隠し、ジーンズで脚を隠すんだ」


 ジョエルの言葉に、セバスティはクツクツと笑う。わたくしの首筋に視線を向け、一瞬目を見開いたが、内出血だとわかると『ヤレヤレ』と言わんばかりに眉をハの字に下げた。


「ジョエル様も焦れったいことをなさる。俺ならガブリと……」


「ガブリでございますか?」



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