29
ジョエルの唇が、わたくしの唇を塞いだ。
唇を塞がれ、思わず吐息が漏れる。
ジョエルは唇を離すと、ふっと口元を緩ませ笑った。
「イチ、俺を誘うような声を漏らすな」
「わたくしが誘うなど……」
思わず赤面し、声を詰まらせる。
「同じ時代に生まれなくても、同じ人種に生まれなくても、俺とイチはこうして巡り逢えた。この地に堕ちたのは、イチに逢うためだったのかもしれないな。さぁ、もう寝ろ。これ以上悩ましい瞳で俺を誘惑すると、おやすみのキスだけではすまなくなる。それともイチはそれをのぞんでいるのか?」
「わたくしは、そのようなこと……」
ジョエルがわたくしの体を強く抱き締めた。
ドキドキと鼓動が速まり、眠ろうと瞼を閉じてもなかなか寝付けない。
ジョエルの冷たかった体も体温を取り戻し、血色の悪かった唇もほんのりと赤みを帯びる。
ジョエルに触れられた唇も……
ジョエルに触れられた髪の毛も……
ジョエルに触れられたこの体も……
全身が脈を打つように火照る。
ジョエルとひとつの布団の中で抱き合い、おなごの身でありながらも平常心を保つことなど出来るはずもなく、瞼を閉じたまま夜明けまで眠れなかった。
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