28

 ガウンから覗く白い肌は、鎖骨が浮き出るほど、細く見えた。


「冷たい……」


「イチが温めてくれ」


「ジョエル……」


「寒くて……凍えそうだ」


 ジョエルの青ざめた顔を見ていると無下むげにも出来ず、わたくしはジョエルの背中に手を回し、ジョエルの冷たい体を包み込む。


「イチを許嫁の元に返したくない。俺の傍にずっといてくれ……」


「それは出来ませぬ……」


「浅井長政を愛していると言うのか?」


「それは……」


 ジョエルの唇が耳に触れ、首筋に滑り落ちる。強く吸われチクリと痛みが走り、わたくしは目を見開いた。


「心配するな。俺の印をつけただけだ」


「何をしたのですか」


「これは、紅きキスマーク。イチは俺のものだと言う刻印」


 わたくしは首筋に手を当てる。恥ずかしさから耳たぶが熱を放つ。


「このようなことをしてはなりませぬ。わたくしは……」


「浅井のことも、兄、信長のことも忘れろ。ここは戦国の世ではない。政略結婚など関係のない世だ」


「ジョエル……」


 わたくしの目から涙が溢れ落ちた。

 浅井長政殿が恋しくて泣いているわけではない。見知らぬ地に迷い込み、自分がこれからどうすればいいのかわからないからだ。


「泣くな、イチ。祖国に戻れなくてもこの俺が傍にいる。イチが望むなら、永遠の命も与えてやる」

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