27

 その身の毛も弥立つ形相に、思わず部屋のカーテンを閉めた。


 広いベッドに一人で潜り込む。バサバサと鳴る不気味な音に両手で耳を塞ぐが怖くて眠れない。


 ジョエルはまだ戻らぬのか……。


 許嫁がいながら殿方と寝所を共にするなどふしだらではあるが、知らない国で一人で眠るのは怖くてならない。


 暫くして、寝室のドアが開く。優しい足音がし、黒いガウンを着たジョエルがベッドで眠るわたくしに近付く。


「イチ、まだ起きていたのか?」


「……ジョエル」


 ジョエルが枕元に腰を降ろし、わたくしの髪を撫でた。それだけでわたくしの不安な心が癒された。


「蝙蝠が窓に……。怖くて怖くて……」


「蝙蝠はもう棲みかに戻ったよ。心配はいらない。あの蝙蝠はイチを襲ったりはしない」


 ジョエルがわたくしを抱き起こし、優しく抱き締めた。


「なりませぬ。わたくしには……許嫁が……」


「イチが誰のものでも関係ない。今は俺のものだ」


「ジョエル……」


「イチもこの国にいる間は、俺を愛してくれ」


 ジョエルはわたくしを抱きしめたままベッドに身を沈めた。


 ジョエルの体は冷たく、長時間夜風に曝されていたかのように指先もひんやりとしていた。

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