red 3

市side

26

 寝所に入り月を眺め、兄上の事を思う。わたくしが突然城から姿を消し、きっと騒動になっているに違いない。


 わたくしが浅井長政殿のところに嫁がなければ、織田家と浅井家が同盟を結ぶことが出来ないからだ。


 一刻も早く、兄上の元に戻らなければ……。


 でもどうやって……。


 わたくしを助けてくれたセバスティとジョエルはとても良い人だが、わたくしの知る殿方とは異なり魔術とやらの不思議な能力を持つ。


 何よりも腑に落ちないことは、この屋敷に来て二人が食しているのを見たことがない。夕食ゆうげにはいつも赤いワインをグラスに注ぎ飲んでいるだけ。


 もしかしたら、彼らは……

 あやかし?物の怪……?


 まさか……

 そんなモノがこの世に存在するはずはない。


「大学と言うところも、不思議なところであった……」


 マハラやオルガ、殿方もおなごも、わたくしの住む戦国の世では考えられないくらい仲睦まじい。


 馬よりも速いバイクに跨がり、夜道を走り抜けた爽快感。


 ジョエルの体に触れ……

 ジョエルの唇に……。


 ジョエルとの口吻を思い出し、思わず赤面する。


 わたくしとした事がはしたない。

 何を考えておるのじゃ。


 あれはこの国の挨拶で、男女の情愛ではない。


 バサバサと翼の鳴る音がし、窓ガラスに蝙蝠が激突する。醜い顔をし鋭い牙を剥き、今にもわたくしに襲い掛かってきそうだ……。


「きゃあ……」


 ガラス越しなのに、思わず悲鳴を上げる。

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