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「セバスティ、何ということを」


 セバスティは腹を擦りながら溜息を吐く。


「俺はジョエル様ほど、情に厚くはない。気を緩めると人間を襲いたくなる。ここに来て一年以上が経過した。人間の血を吸血していないから力も出ない。獣の血は不味いし、大学で女子学生に喰いつきたくなります」


「セバスティ、口を慎め」


「わかってます。俺達がヴァンパイアだと、この国の人間に知られてはいけないんですよね」


「当たり前だ。俺はこの地で人間を吸血しない。この国で同族を繁殖する気はないからな。俺達が歴史を変えてはいけないんだ」


「はいはい、ジョエル様の仰有るとおりに致します。さぁ狩りに参りましょう」


 セバスティは書斎の窓を開けた。夜風が室内に吹き込む。


 屋根裏に潜んでいた蝙蝠が一斉に夜空に飛び立つ。セバスティが両手を広げると、セバスティの体は一瞬にして大蝙蝠に変身した。


 普通の蝙蝠よりも、一回り大きく前肢の指が長く伸びその間にある飛膜は翼に変形し黒光りしている。月の光を浴び、俺の左右の歯も徐々に伸び獣の牙となる。


 両手を広げると、俺の体も大蝙蝠に変身した。


「キキーッ」


 夜の闇に蝙蝠の鳴き声が轟き、俺達は群れをなし森の奥へと突き進む。殺気を感じ闇に潜み目だけを光らせている仔狐を見つけ急降下した。


 逃げ惑う数匹の仔狐を蝙蝠は群れをなし襲撃する。そして仕留めた獲物を分け合い俺達は今宵のディナーにありつく。


 最後の一滴までも血を吸い付くし、新たな獲物を探し夜の森を彷徨った。


 あとどれくらい、俺とセバスティはこんな生活をしなければならないのだろうか……。


 この国は吸血鬼狩りに怯えることのない平和な国。けれど俺達は、もう一度十二世紀のヨーロッパに戻り、俺達の父や母を、そして同族の仲間を人間の魔の手から救いたかった。

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