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 イチが……

 僅か三十七の若さで自害……!?


「ジョエル様、何を気難しい顔をしているのです?日本の歴史ですか?俺達はこの国に永住する訳ではありません。いずれ元の世界に戻れるはず。この国のことを学ぶなんて無意味ですよ」


「セバスティ、どうすれば時空を超えられるというんだ?その方法がわからないから、俺達は今もこの地にいるんだ。それに、俺が調べていたのは……イチのことだよ」


「イチ様でございますか?」


「これを見ろ。イチが住む尾張国とは日本のことだ。イチは戦国武将織田信長の妹。イチも時空を超えてこの地に来たんだ」


「イチ様も我々のように時空を超えたのですか?」


 セバスティは俺の開いたページを熱心に読み漁る。


「お市の方が、イチ様でございますか?同姓同名でしょう。同じ名前なんてこの国には、ごまんといる。イチ様は記憶障害なだけです」


「イチの着ていた着物や髪型も、この時代の人物画とよく似ている」


「それって、コスプレってヤツでしょう」


「セバスティふざけるな。俺は真剣なんだ」


「ジョエル様、イチ様の正体なんて関係ないではありませんか。イチ様は人間、俺達はヴァンパイア。吸血する者とされる者。それだけです」


 セバスティは口を大きく開き、右手の人差し指で伸びた牙に触れる。


「ジョエル様、腹が減りましたね。狩りに行きましょう。そうでないと、空腹に耐えきれずイチ様を襲ってしまうかもしれません」

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