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「やぁ、イチ。今夜も綺麗だね。夜空に浮かぶ月よりも美しい」


「……マハラこんばんは」


 ガラガラとドアが開き、オルガ  ウッドが入って来た。オルガはルーマニアから来た留学生だ。髪は黒、瞳も黒。乱暴者でトラブルメーカーだ。


「イチ、ジョエルには気をつけな。コイツは女には冷酷だからな」


「余計なお世話だ。イチ、こっちに来い」


「はい」


「イチは素直だな。この大学にいる女とは、一味違う。今まで何処に住んでいた?」


 オルガの問いに、イチがチラッと俺を見上げ不安げに小声で答える。


「海外生活が長く、最近この国に、き……帰国しました……」


「イチは俺の家に住んでいる。オルガ、これでいいか」


「ジョエルはイチが自分の女だって主張したいわけだ。だがマハラの手に掛かると、イチもあっけなく堕ちてしまうかもな」


「わたくしが堕ちる?何処に堕ちるのですか?」


「これは面白い。イチはよほどウブなのか、それとも天然か?」


 オルガに天然といわれ、思わずイチの腕を掴む。


「イチ、オルガの話なんて聞かなくていいよ。こっちにおいで」


「はい」


 イチを囲むように、俺とセバスティは両サイドの席に着く。俺達の後ろに美薗と春乃、オルガが座り、後列にマハラを囲むようにメリッサとルーシーが座った。


 他の生徒も次々と登校し、三十名近い学生が教室に揃う。講義が始まりイチは熱心にノートに取り、学生の誰よりも真剣に聞いていた。


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