ジョエルside

18

「ジョエルこんばんは」


「こんばんは。美薗みその春乃はるの


 日本人、秋田美薗あきたみそのは黒髪のボブヘア、目は大きく顔立ちは童顔。木谷春乃きだにはるのはブラウンの髪色でショートヘア、目は切れ長で美人。


 働きながら酪農を学ぶ二人は、俺の友人。セバスティが右の掌を上に向けふぅーっと息を吹き掛けた。


「こんばんはイチ」


「……こんばんは」


 セバスティの一吹きで、すでにイチは二人の友達だ。セバスティは大きく手を広げ、夜空に向けフーッと息を吹きかけた。キラキラと夜空を星が流れる。


 これでこの地に住む者で、イチを怪しむ人間はいない。


「イチ、昨日また仔豚が死んだの。首には二つの牙の痕。また狼の仕業かな」


「狼?」


「深夜になると、狼の群れがここに現れて、家畜を殺すのよ」


「牛舎や豚小屋に鍵は掛けぬのですか?」


「鍵は掛けてあるけど。何処からか侵入するの。特に仔豚や仔牛が狙われるの。別の場所に隠しても何故か狼にバレてしまうのよ。けれど不思議なことに、狼は決して肉を喰い荒らしたりしない」


「殺した獲物の肉を食さないとは、奇怪なこともあるのじゃな……」


「美薗もイチもお喋りはそこまでだ。さぁみんな教室に行くよ。講義が始まる」


 俺とセバスティはこの学校に餌となるべき人間を探すために入学したが、学生と親しくなり吸血することが出来ない。


 情に厚いヴァンパイアなんて、亡き父が聞けばきっと嘆き悲しむだろう。

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