red 2

市side

15

 深夜目覚めると、ジョエルは布団の中には居なかった。そこにはジョエルの温もりもない。


 パサパサと翼の音がし窓から外を見ると、暗闇に何百匹もの蝙蝠が飛んでいた。


 月をも隠すその異様な光景は、不気味で薄気味悪く、怖くなったわたくしはジョエルの姿を捜す。


 寝所から飛び出すと、そこにジョエルの姿があった。黒いマントに身を包んだジョエル。形のいい唇の端に赤い血が滲む。


「ジョエル様……血が……」


「触るな。それに敬称は不要だと言ったはずだよ。ジョエルでいい」


 ジョエルは唇の血を右手の指先で拭う。


「真夜中にどちらへ行かれていたのですか?」


「イチには関係のないこと。眠れないのか?」


「……はい」


「俺が傍にいるから安心して寝ろ」


「……はい」


 ジョエルに抱きすくめられる。ジョエルの黒いマントの胸元には、獣の毛が付いていた。


 動物の巣穴を狙い狩りにでも出掛けていたのだろうか?だからさっき血が……。


「ジョエル……お怪我はありませぬか?」


「イチ、俺を心配してくれるのか?」


 ジョエルはわたくしを軽々と抱き上げた。思わず小さな悲鳴を上げる。ジョエルはそんなわたくしに優しい笑みを浮かべ、ベッドの上にそっと降ろした。


 わたくしの首筋に唇を寄せたジョエルに、思わず心の臓がドクンと跳ねたが、ジョエルはわたくしに何もすることなく胸に抱いた。


 わたくしは親鳥に抱かれた雛鳥のごとく、その懐に包まれ安堵して眠りについた。

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