13

「よい香りじゃ……」


 花のような芳しい匂いに気分が和む。知らない国、知らない土地、知らない殿方。それなのに……ジョエルやセバスティに不思議と恐怖心はなかった。


 シャワーを浴び、ふわふわのタオルで濡れた髪を拭き、体の水滴を拭きとる。


「手拭いとは違って、やわらかな肌ざわりじゃ」


 下着を手に取り両手で広げて見る。不思議な形、このような小さな布切れをどのようにして身につけるのじゃ?


 ショーツに足を通し穿いてみるものの、臀部を締め付けられ窮屈で、布が短すぎるため臍も出ている。


 妙な形をしているブラジャーの紐を持ち上げ、まじまじと見入る。


「何とも奇妙な形じゃ。この膨らみで乳房を隠せばよいのじゃな」


 ブラジャーの肩紐に手を通し、カップの膨らみに乳房を包み込む。しかし背中には手が届かず、上手く装着出来ない。何度も試してみるが、ブラジャーはだらりと垂れ下がるばかりだ。


「後ろの止めかたがわからぬ。紐なら容易いものを……」


 結局、上手く装着することが出来ず胸元をプカプカさせたまま、赤いネグリジェを身につける。


 脱衣所を出ると、ジョエルがベッドに横たわっていた。ジョエルは直ぐさまわたくしの胸元に視線を向ける。


「イチ、自分でブラを外したのか?俺を挑発してるの?」


「挑発!?このようなもの、わたくしの国にはございませね。付け方がわからぬゆえこれでよいのです」


 ジョエルはクスリと笑い手招きする。

 わたくしはジョエルに近付く。


「イチ、ブラのホックはこうするんだよ」


 不意に腕を掴まれ、ジョエルはわたくしの背中に手を回し抱き寄せた。ネグリジェの袖口からスルスルと右手を滑り込ませ、背中に手を回し器用にブラジャーのホックを止めた。


 ブラジャーに胸を圧迫され息苦しくなり、苦痛に顔を歪めると、ジョエルはブラジャーのホックを指でパチンと外した。締めつけから解放された豊かな胸が上下に揺れ、羞恥心からジョエルを突き離す。


「ぶ、無礼な」


「自分でやってみろ。浴室でいつも俺が手伝うわけにはいかないだろう。ベッドで外す時は手伝ってやるけどな」


「……っ」


 わたくしはジョエルに背を向け、自身の背中に手を回しおぼつかない指先でブラジャーのホックを止めた。

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