「部屋はエアコンで暖房がしてある。寒くても暖炉に薪はくべないように。イチはポタージュスープを知らないのか?」


 ジョエルとセバスティは顔を見合わせた。


「はい、御味御汁おみおつけなら存じておりますが……」


「これはじゃがいものポタージュスープだよ。食べてごらん」


 セバスティが椅子を引き、わたくしに座るようにと促す。わたくしは器に顔を近づけ匂いを嗅ぎ、両手で器を持つ。


「あつい……」


 あまりの熱さに手を離すと、ガチャンと音がし、お皿がテーブルに落ちポタージュスープが溢れそうになった。


「イチ様、そちらにあるスプーンをお使い下さい」


 セバスティが指を差したは、銀色に光る不思議な形をしていた。


「スプーンとは、どうやって使うのじゃ?」


「イチは面白いな。まるで何も知らない小さな子供だ。記憶をなくしているのか?」


 記憶……?


「足を滑らせ城の石垣から落ちたことは、ハッキリ覚えております……。ただこの城で目にするものは、我が城にはない品ばかり。異国の文化がこれ程までに素晴らしいとは目を見張るばかりで……」


「イチは石垣から転落したのか?」


「……はい」


「そうか、それでこの地に。だから現代人とはかけ離れているのだな。イチ、よく見ていろ。スプーンはこうして使うんだよ。フォークやナイフの使い方も俺が見本を見せてやる。ただし、俺は食さない。食べる振りだけだ」


「食さない?こんなにも豪華なお料理なのに、ポタージュスープがお嫌いなのですか?それとも空腹ではないのですか?」


 わたくしはジョエルの真似をし、スープをスプーンで掬いゆっくりと口に運ぶ。


「ポタージュスープは口に合わない。俺はイチの白い首筋と、紅き唇にしか興味はない」


 ジョエルはわたくしを見つめニヤリと口角を引き上げた。

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