市side

 重い瞼を開くと、そこには城で目にしたこともないような舶来物で溢れていた。


 ふかふかの寝具。

 天井にはキラキラと光る不思議な灯り。

 窓には黒い布が掛けられ、室内の家具は全て赤い色で統一されている。


 そして、わたくしの目の前にいたのは、刀を持ちまげを結った武士ではなく、金色の髪をした青き瞳の異人。


 わたくしは城の石垣で足を滑らせ、落下したはず。わたくしを助けてくれたのは、この異国の殿方?


 どのようにして、この屋敷に連れてこられたのかわからぬまま、わたくしは命の恩人に太刀を振るい、見たこともない異国の着物を渡される。


 そのドレスを広げると、胸元も腕も人目に晒す恥ずかしき形をしている。特に上半身は着物のように体を隠すことが出来ない。


「このような格好で、殿方の前に出るなど、なんとはしたないことか……」


 意に沿わぬが、我が城に戻れない身であるならば、この城の掟に従わなければならない。相手を油断させ、生き延びてこの城を出るためには、恥をさらすことも致し方がないこと。


 だが着てみると、着物よりも動きやすく、生地は美しく肌触りもいい。


「……ドレスとやらは、なんと美しいのじゃ」


 ドレスの裾を持ち階段を降りる。セバスティに案内された室内は、火鉢もないのに春の陽のように暖かく、テーブルの上には見たこともないご馳走が並んでいた。


 まるで幼子のように、わたくしはジョエルに問う。


「これは何と言う食べ物でございますか?どうしてこの部屋は暖かいのでございますか?」

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