セバスティが右手の指をパチンと鳴らすと、俺の手の中に真紅のドレスが舞い降りる。ドレスの裾は薔薇の花びらを思わせるフリルが幾重にも重なり、とても華やで美しい。


「泣くな。これに着替えろ。ここの生活も悪くはない。イチが望むなら、俺が永遠の美も永遠の命も与えてやろう」


「永遠の命?」


「イチが望むなら俺が全て与えてやる。取り敢えず冷えた体を温めるがいい。セバスティ、イチに食事を用意しろ。体が温まるスープもな」


「はい。ジョエル様はもう召し上がられましたか?」


「いや、俺はもう少し楽しんでからだ」


 イチの生き血を吸い命を奪うことは意図も簡単なこと。そして永遠の命を与えることも、だがそれはもう少しあとだ。


 イチから、永遠の美と命が欲しいと俺に願い出るまで、極上のディナーはオアヅケだな。


「このドレスに着替えて、一階のダイニングルームに来い」


「ダイニングルームとはどういう意味で御座いますか?」


「食事をする部屋だ」


「……はい」


 俺は寝室にイチを残し、一階のダイニングルームに降りる。


 赤いテーブルクロスの掛かったダイニングテーブルの上には、すでに料理が並んでいた。


 温かなポタージュスープ。

 生野菜と海老のサラダ。

 焼きたてのパン。

 子羊のステーキ。

 白身魚のムニエル。

 林檎やオレンジのフルーツ。


 そして、赤ワイン。


 ドアが開き、真紅のドレスを身に纏ったイチが現れた。大きく開いた胸元からは豊かなバストの膨らみが見え、ウエストはキュッとくびれている。


 眩い程の美しさに俺はハッと息をのむ。


 セバスティがそんな俺に気付き、口元を隠し笑いを堪えている。


 何とも憎らしい顔だ。


 俺は何事もなかったかのように、イチに手を差しだすが、イチは俺を警戒し首を左右に振る。その直後、セバスティが吹き出すのを俺は見逃さなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る