#38
「寝ちゃったよ、この人」
散々泣いた弥白先輩は今俺の膝を枕にしてスースーと寝息を立てている。
まだ花火も残っているのに、どうしたものか。それに弥白先輩ってお嬢様らしいけど、門限とか大丈夫かな?
帰りはちゃんと送って帰ろう。
手持ち無沙汰になってしまった俺はとりあえず暇つぶしにとスマホを取り出す。
連絡が着ていた。
一人は寧々音から。飯はどうするのか? って内容だ。
帰ったら食べるとだけ返信しておいた。
「逢坂……くん」
「あ、起きました?」
声を掛けてみるが返事はない。ただの寝言だったらしい。
返事をするついでに弥白先輩の横顔を見てしまい、少しだけ見とれてしまった。
少しだけというのは、すぐに視線を上げて首を振ったからだ。寝顔がやけに可愛くて、サラサラの髪の毛を触りたくなってしまったのである。
別にそれで怒られたりはしないだろうが、なんとなくいけないことをしようとしている気持ちになって、手が止まった。
しかし、見ているとだんだん邪な気持ちがわきわき……
――ピリリリ
「はい! 触ってません! 俺はなんにもしていない!」
びっくりして両腕を大きく上に上げる。
着信音だ。
人騒がせな……と自分勝手に文句を言いつつ、相手を見ると姫ちゃんだった。
「はい、もしもし」
『もしもしじゃないです。輝兄さん、今何時だと思っているんですか?』
「えーと、十九時回ったところだね」
『いつもなら一目散に家に帰ってゲームをしている引きこもり予備軍たる輝兄さんがこの時間に家にいないなんて……』
わぁお。今日もキレッキレだ。
「えーと、もしかして姫ちゃんは家にいる?」
『はい。寧々音とパジャマパーティです』
ほぼ毎週パーティしてんね君ら。パリピですやん。
『そんなことより! 寧々音が心配してるから早く帰って来て下さ『いや、してないよ』……いいですか!?』
「え、今してないって……」
『つべこべ言わない!』
「えぇ。でも今は……」
『なんですか?』
スヤスヤ眠る弥白先輩を起こすのはなんだか気が引けるのだ。
「ううん……あれ? 逢坂君?」
あ、起きた。
「ひゃあっ! ひ、膝ごめんね!?」
飛び起きる弥白先輩。
それはいいんですけどね? タイミングが悪かったなぁ。
『輝兄さん?』
「は、はい」
『どちらで、どちら様と、どのように過ごしているのでしょう?』
「それはですね……」
この電話越しに感じるオーラよ。まるで大魔王の如しである。
「逢坂君? 電話? あ、花火、どうしよっか? まだ残ってるけど」
『花火? ふーん『花火!? かぐにぃ!? 寧々に黙って花火してんの!?』ちょ、寧々音! 今は私が輝兄さんと大事な話を……』
向こうで何やらギャーギャーと騒ぎ始めているよう。
うーん、これは困った。主に俺の生死を分ける選択という意味で困った。
あ、そうだ。
「弥白先輩。皆で遊びましょうか?」
「皆で? あぁ……」
考えたのは一瞬。
弥白先輩はすぐに顔を上げて笑った。
「うん。皆で遊ぼう」
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