#37
花火がパチパチと鳴りながら、火花を散らせるのを並んで見ていた。
「俺、あのシーン好きなんですよね」
「何の話?」
「ほら、ゲームの中じゃ二人は夏祭りで上げられる大きな花火を見れなかったじゃないですか。それで、主人公はやしまの為に花火を買って」
「うん」
「その時のやしまの絵って後ろ姿だったの……あれ、わざとでしょ?」
「そうだね……」
「だからこそ頭の中でやしまの表情が想像できて、もう頭がぐちゃぐちゃになるくらい愛おしいなって思いましたもん」
あれは絶対にプロの仕業だとか思ってたけど、まさか学校の先輩……それも生徒会長の仕業だなんて誰が想像しただろう。
「本当に好きなんだね。ゲーム」
「そりゃね。それが生き甲斐ですから」
「ふふ、じゃあその生き甲斐を失ったら君はどうなるのかな?」
「えー、どうなるんだろ。想像できないです。でもきっと新しい生き甲斐見つけるんじゃないですか?」
「そんな簡単に切り替えれるんだ?」
挑発的な言葉だ。これに取り繕った言葉はいらない。
いや、そもそもこの先輩に対して取り繕うなんて無謀なのだ。
「簡単に切り替えられるわけじゃないです。でも、案外、ゲーム以外にも面白い物がこの世界にはあるって……みんなが気づかせてくれたからです。ほら、今こうやって先輩と花火するの、楽しいですよ?」
「……そうだね。僕も楽しい」
「うわ、楽しそうじゃなさそう」
「た、楽しいよ! で、でもはしゃぐのは……なんだか違う気がして……」
慌てる弥白先輩。別に意地悪で言ったつもりはなかったんだけど。
「はしゃぎたかったらはしゃいでもいいと思いますけど」
「それは……」
「まぁ、俺ははしゃぎませんけどね!」
「逢坂君!」
うっ、怒られた。
「でも、和華ははしゃぎますよ」
「……想像出来るね」
「寧々音も結構花火好きなんですよね。和華にネズミ花火投げてそう。それと、姫ちゃんは……最初は乗り気じゃなさそうにするけど、寧々音が楽しそうにしているのを見て、やっぱり一緒に遊んでます」
「うん」
「で、暴れる和華と寧々音に対して優しく注意するのが茉莉」
あいつら皆分かりやすいから容易に想像出来る。
一つ花火が終え、新しい花火に火をつけた。
「それで、そんな皆を一歩下がって見て笑ってる先輩」
「……僕もそこにいるの?」
「いますよ。それで俺と茉莉がもっと近くでやろうって言うんです。そしたら先輩は……」
「きっと遠慮するよって言うかな」
うん、俺もそう思ってた。
「でも、和華が引っ張ります。それで寧々音と姫ちゃんが背中を押して……」
弥白先輩の花火が終わった。次の花火は出さない。
沈黙の間に俺の花火も終わってしまう。
まだ、花火は残っているけど、弥白先輩の言葉を待つことにした。
「ずるいじゃないか。ずっと君はずるをする。今日の君はとても意地悪で、可愛くない」
「男に可愛いなんて言わないで下さいよ」
「僕は扱いやすい君が好きなんだ」
「じゃあ、もう好きじゃないと」
「ほら、また意地悪をした」
まるで幼い子どもだ。まぁ、先輩の本質はもしかしたら子どもっぽいのかもしれない。今までもそんな片鱗はあった。
さて、そんな先輩だ。無理をしているのは見え透いている。トドメを刺そう。
「ところで、何がずるいんです?」
「……我慢できなくなる」
「何を?」
「僕はいつも一人だったのに……」
気がつけば弥白先輩の瞳からはポロポロと涙が流れていた。
「本当は一人に戻りたくなんてなかったんだ。でもどうせ一人になるなら、最初から……」
俺はため息を吐いた。
「アホですか」
「なっ!」
「一人になりたい人が偶然であった俺に訳の分からん呪いなんてかけるわけないでしょ」
「そ、それは……」
「最初から答えなんて先輩の作ったゲームに描かれてるじゃないですか」
弥白先輩の目が見開かれる。
到底、この人と出会わなかったら、あの作品の伝えたいことなど分からなかったはずだ。
「一緒に遊んでくれる人が欲しかったんでしょ? でも、それが叶わないって思っているから、やしまは最後に成仏してしまった。全部先輩の感情の揺れ動きで出来てあるんだ」
本音と現実。あるいは思い込み。先輩の複雑な感情の動きをずっとやしまと言う幽霊少女として映し出されていたのである。
「だから俺はこう言います。俺と……じゃなくて、俺たちと遊びましょう。だから、成仏なんてしないで下さい」
うーん、このみんなも含めてってところが俺が主人公になれない理由だよね。
「成仏なんて……もうできないよ」
弥白先輩はそう言った。
「どうやら僕にも呪いがかかってしまったようだね」
「呪い返しです」
「逢坂君のあほー」
なんでやねん。
そのあとも弥白先輩は人のことアホだのバカだの言いまくって泣いた。
豆腐メンタルな上にガラスのハートって……。壊れ物注意って背中に貼っといてやろうか。
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