#33

「いえーい! 盛り上がってるぅ!?」

「「「うぇーい!」」」


 なんだここ、帰りたい。


 なんのグループなのかは知らないが、男女交合で六人。そこに、俺と弥白先輩の計八人が少し広めのカラオケルームにいるメンバーである。

 こういうのをウェイ系と言うのだろうか?

 俺はアウェイ系なんで、今すぐに帰りたい。


 しかし、隣に座っていつもより真面目くさった顔をしている弥白先輩を置いていくわけには行かないよなぁ。

 これ、たぶん緊張してるんだろうし。


「後輩君も盛り上がってる!?」

「う、うぇー?」

「「「うぇーい!」」」


 もぅやだおうちかえりゅ。

 ここなんて地獄? 火羅終怪地獄?


「それで、後輩君と会長はどんな関係なの? 付き合ってるとか?」

「え?」


 歌が始まり、ちょいイケメンくらいの男子の先輩が歌い始めると、俺の対面に座っていた女子の先輩が聞いてきた。


「あ、私は青島あおしまおり。会長さんのクラスメイト」


 青島と名乗った先輩は、今いるメンバーじゃ、一番大人っぽい雰囲気を持った人だ。


「いや、付き合ってはないです。その、友だち……? ですかね」


 ちょ、弥白先輩、なんでズボンつまんでんの? 机の下だから向こうからは見えないだろうけど……。


「ふーん。クラスじゃ噂になってるよ? 会長さんに彼氏ができたって」

「そんな馬鹿な!?」


 俺より先に驚いたのは弥白先輩で、目をぎょっとさせている。


「あら、違うのね。でも、会長さんってすごく可愛く……じゃなくて、以前と比べて取っ付きやすくなったと思うんだけど。それは君のおかげなんでしょ?」

「はは、そんなわけないですよ。元々先輩は優しい人ですし」

「あ、うん。それは知ってる。けど、こう、高嶺の花だった感じが、手の届くくらいの位置に降りてきてくれた……みたいな?」


 それ、本人の前で言うんだ。青島先輩は物怖じしないタイプなんだろうな。

 物怖じしない人って怖いよね。なんかめっちゃ喋ってくるし。


「今じゃ、会長さんのこと狙ってる男子も多かったり?」


 これ、俺を挑発してんのかな……。多分、まだ俺と会長さんのことを勘違いしてんだろうな。


「そうですか」

「あら、素っ気ない」


 なんか反応したらアンタに弄られるんでしょう。嫌だよ。面倒くさい。


「そういえば、会長さん」

「今は学校じゃないから名前でいいよ」

「そう? じゃあ、弥白さんにとって後輩くんはどんな人?」


 どうしても恋バナにしたいのか、ターゲットを会長に移したようだ。

 しかし、残念だが俺と会長はただの友だちで、お求めの答えは返ってこない――


「大切な人だ」


 瞬間、目の前の青島先輩だけじゃなくて、部屋にいた全員が固まった。

 俺も固まった。


「こんな僕を見捨てずに、友だちでいてくれる。そして、どんな僕でも受け入れてくれるような気にさせてくれる、深い器の持ち主だと思うよ」

「あ……、えっと……それは友だちとしてってことだよね?」

「そうだね。とてもかけがえのない人だと思う。けど、それが……とても……」


 とても……なんだろう?

 続きの言葉を待つが、弥白先輩は慌てて言うのをやめた。


「おっと、変なことを言ったかな? 忘れてくれ。とにかく、彼は僕の大切な友人なんだ。だから、あまりいじめるのはやめてあげて欲しいかな」


 女子でもドキッとしそうな、爽やかな笑顔を向けられて、青島先輩の頬が赤くなる。


「いや、そんなつもりはなくって……でも、ごめんね後輩君」

「あ、いえ……別に……」


 それどころじゃない。

 どうしてか、胸騒ぎがする。


 でも理由が分からなくて、さらに思考に霧がかかったようで、モヤモヤして、弥白先輩を見た。

 当の彼女はニコリと笑って、


「僕の顔になにかついてる?」

「……はい」

「えぇ!? どこだい!?」


 いつもと変わらない弥白先輩に思わず冗談を言ってしまう。


「嘘ですよ」

「むぅ、僕が君をからかうのは好きだが、君は僕をからかうのはよくない」


 そんな殺生な。


 そんな俺たちを見て、何を思ったのか、青島先輩が手前の飲み物を飲んで、


「お腹いっぱいよ。ごちそうさまでした」


 なぜか、手を合わせてきたのだった。

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