#31.5
「いないっすねー逢坂先輩」
「そうだな……」
「今日の黒岩先輩はなんか元気ないっすね」
アホみたいに開いた口から魂が抜け出そうとしている陸斗の顔を覗き込むのは後輩の男鹿だ。
声をかけられて、魂を飲み込んだ陸斗はやはりテンション低めの声で答える。
「それは、天国から地獄に叩き落とされたからだよ」
「逢坂先輩達とはぐれたくらいで地獄は言い過ぎっすよ」
「いや……うん。そうだな」
それだけじゃないのだが、本人の前で言えるほど、陸斗は鬼ではなかった。
陸斗は男鹿と一緒にはぐれた輝夜達を探しているが、なかなか見つからない。
「一周したのに見つからないとか、これ、何かの力で俺が輝夜達と合流するのを防がれてんじゃねーの」
「何かってなんすか」
「そりゃ、この状態で輝夜が得するんだから、エロゲの神様じゃねーの」
「エロゲの神様ってなんすか。そこは恋愛の神様とかじゃないんすか」
男鹿は笑いながら言うが、陸斗は真面目な顔で。
「いや、あいつにはエロゲの神様が着いているに違いない」
「そ、そうすか。や、でも俺も今日はツいてます」
「ん?」
「だって、黒岩先輩に会えたっすから!」
まるで、無邪気な子供のように白い歯を見せて笑う。それを見た陸斗は再び魂が口から出てきそうになるが、ギリギリで出ていくのを防いだ。
「……あ、黒岩先輩! あのお化け屋敷に逢坂先輩が入ってった気が!」
「なんだと!? よし、追いかけて入るぞ」
「え? 外で待ってれば……いや、なんでもないす。行きましょう!」
そして、二人はお化け屋敷へと入って行った。
二人の入ったお化け屋敷は、廃ホテルをイメージされたお化け屋敷で、不気味な絵画がいくつも廊下に飾られている。
レッドカーペットの上を歩きながら、虚勢を張る相手のいない陸斗は不安を隠さず、体の大きな男鹿の近くに寄る。
ちなみに、これはどちらの恐怖を我慢できるか悩んだ末の苦渋の決断だ。
「お、俺。よく考えたらお化け屋敷って苦手なんだよ」
「そ、そうなんすか。なんだか意外っすね……じゅるり」
「なぜか悪寒がするんだが」
「あぁ、雰囲気作りのために施設内を冷やしてるのかもしれないっすね。でも、俺はなんだか体が火照ってきた気がします」
「お、おお。んん?」
なんとなく身の危険を感じた陸斗は半歩ほど離れる。
すると、男鹿もまた半歩付いてくる。
さらに離れる。やはり付いてくる。
ふと、逃げるように男鹿とは反対の壁に目を向けると、そこにはおどろおどろしい姿をした老婆の絵が飾っており、その老婆の目がギョロリと動いた。
「ぎゃあ!」
「おっと」
驚いて飛び退り、それを男鹿が優しく抱きとめる。
「大丈夫っすか?」
「大丈夫じゃねぇ! よし、出よう。さっさと出よう!」
「うっす。……手、繋ぎましょうか?」
「い、いや、それは遠慮しとこう……かな?」
「遠慮することないっすよ。ほら、こうしていれば……怖くない」
ぎゅっと握りしめられる手。男鹿の手は陸斗の手より大きく、そして温かかった。
「お、男鹿……」
「先輩……」
そして、二人の距離が近づき……。
――テロリロリロリン
しかし、携帯が鳴り正気に戻った陸斗が慌てて男鹿から離れて、着信に出る。
『あー、陸斗か? お前どこにいるんだよ』
「どこにいるんだよじゃねーよ! お前らを探してんだろうが!」
『え? そうなの? いや、それより、なんか俺強制的に家に帰らせられるから、先に帰るな。他の皆も』
「は? 意味不明……ちょっ、輝夜? 輝夜さーん? ……切っただと?」
困惑する陸斗。その肩に男鹿の手がポンと乗る。
「先輩。俺がいます」
「うわぁぁぁぁ!」
走る陸斗。すると、そこに、先程の絵画そっくりの老婆が部屋から飛び出してくる。
「ぎゃああああ!」
引き返そうと踵を返す。しかし、そこには笑顔の男鹿。
次に陸斗が目を覚ました時、頭は男鹿の膝のだったとか……。
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