#31

「何をしたらそんなにズブ濡れで帰ってくるんだよ輝夜」


 皆の元に帰るなり、まず和華にツッコまれた。他の面々も同じように怪訝な顔をしているし、聞かれるのは当たり前か。

 これでもだいぶと乾いたんだけどな。パンツはまだビショビショだけど。


「ちょっと池に落っこちてな」

「はぁ? 大丈夫なのかよ」

「大丈夫だって。もう結構乾いてるし」


 ヘラヘラと笑いながら言うと、ペタペタと和華に体を触られる。

 くすぐったいんだが。


「うーん。心配なんだけど」

「だから心配すんなって」

「そうですよ山井先輩。昔から馬鹿は風邪を引かないと言うでしょう?」


 姫ちゃんの毒舌はいつも通り良い切れ味ですね。


「とは言え、万が一ということもあるでしょう。皆さんはこのまま遊んでいて下さい。私が責任を持って家まで送りますので」


 ん?


「ちょっ、いやいや。それならアタシが連れて帰るよ。なんせ、親友だからな!」

「んー、それなら僕が連れて帰ろう。この場で一番年上だし。何より生徒会長として培ってきた責任感が僕を突き動かすんだ」


 和華がやたら主張が激しい胸を突き出しながら言うと、さらに弥白先輩が参加してくる。

 皆、俺の為に優しいなぁ。

 でも、俺帰るつもりなんてないんだが。


「馬鹿らしい……待てよ。これは良い口実……」


 なんか、寧々音までブツブツと言い始めたぞ。


「まぁまぁ、有象無象共よ。年下幼馴染み、親友、生徒会長……良いだろう。しかしだ。傷ついた体を支えるのはやはり血の分けた家族! そう、寧々こそが輝兄を連れて帰るのに適任なんだぞ。さらに輝兄に何かあった場合、看病もできる!」


 寧々音までどうしたんだ。頭でも打ったのか? ちょっと心配。

 ってか、寧々音の看病とか怖くて絶対に心も体も休まらないんだが。

 そもそも、お前はそんなキャラでもあるまい。


 とは言え、寧々音の言っていることはこの中じゃ一番説得力がある。

 三人も偉そうに仁王立ちする寧々音に反論出来ずに黙った。


 寧々音の勝利? が確定っぽくなる。しかし、ここで待ったをかける人物が。


「寧々ちゃん、それに皆も。輝夜君が濡れちゃったのは私のせいなの。だから私が責任を取るのが筋だと思う。だから、私が送るよ!」

「む、むぅ。そ、それじゃあ寧々の計画が……」


 たじろぐ寧々音。ところで何の計画だ?


「待て茉莉。やっぱり心配だしアタシも一緒に付き添うよ。二人なら何が起きても安心だろ?」

「和華ちゃん! うん!」


 そこの女子二人、手を握りあって友情を確かめているとこ悪いんだが、何も起きないからな?


「ちょっと待って下さい! 連れて帰るのに二人もいらないでしょう? 一人で十分です! そして、その一人は……輝兄さんに決めてもらいましょう」

「は? はぁ!?」


 またそのパターンか! 決めるのとか苦手なんだが。

 というかだね。


「ふむ、そうだね。逢坂君に決めてもらおう」

「輝兄はもちろん妹を選ぶだろう?」


 右腕を弥白先輩。左腕を寧々音が掴み、俺の動きを封じてきた。

 なんで、退路絶とうとしてくんの。


「いや、だからさ。俺は帰るつもりはないんだけど? ほら、風邪とか引いたの随分と前だし。早々、風邪になんてかからないって」


 興奮する皆をどうにかしようと宥めてみる。


「そう言う人ほど風邪にかかるんです。さぁ、帰りましょう」

「さっさと選べよ輝兄。寧々はさっさと帰りたいぞ」


 おまっ、寧々音。単にお前が帰りたいだけじゃねぇか!

 もしかして本気で心配してくれてるのかと思ってお兄ちゃん的に感動してたんだけど。

でも寧々音らしいからちょっと安心した。


「本当に大丈夫! ほら、まだまだ遊びたりないだろう? 次はどこに行こうか」


 ポケットから折りたたまれた園内マップを取り出す。

 だが、濡れてまともに読めるものじゃなくなっていた。


「あー、えーと……はっくしょん!」


 うー、鼻水が。


「……もう、面倒だから皆で帰ろう」

「「「「そうだね」」」」


 寧々音が言うと、俺以外が頷き、結局強制的に帰されることになったのだった。

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