#29

「さぁ、次は僕に付き合ってもらうよ」


 寧々音が姫ちゃん達と合流すると、入れ替わりで弥白先輩が手を振りながら近づいてきた。


「お、次は弥白先輩でしたか。じゃあ、何で遊びます?」

「逢坂君が決めていいよ」

「いや、俺はいいですよ。あ、でも絶叫系はもう勘弁です」

「あははっ、凄い情けない顔しているよ」

「うぐっ、ほっといて下さい」


 嫌いなものは嫌いなんだから仕方ないでしょうが。

 不貞腐れる俺を見てクスクスと笑う弥白先輩。本当にいい性格してやがる。


「本当に君は面白いなぁ。んー、そうだなぁ。遊びたいアトラクション……あ、じゃあアレはどうだい?」

「アレ……? は? 本気で言ってんですかアンタ」


 思わずアンタ呼ばわり。それも、アレってのが、メリーゴーランドなのだから気持ちを察して欲しい。

 白馬や馬車がクルクルと回るソレは、どう見ても子供用。小さい女の子達が楽しそうに乗っているのだ。

 大人も乗っていないことはないが、それは子供の付き添いであり、違和感のあるものではない。


 しかしだ、俺みたいな男子高校生や、弥白先輩みたいな一際目立つ容姿の人が乗っていいものではないだろう。

 百歩譲って、姫ちゃんや寧々音なんかは似合うかもしれない。言ったら怒られそうだが。

 それに、和華や茉莉もテンションを高めればワンチャンある。


 でも、弥白先輩は……。

 見た目や外面だけならクールビューティな雰囲気を持っているだけに、違和感しかない。


「弥白先輩って実はM?」

「どうしてそうなったのかな」


 苦笑いをする弥白先輩。


「なるほど。冗談か」

「え? 冗談は言ってないけど……」

「さいですか」


 どうやら本気らしい。まぁ、本人が乗りたいと言ってるのだし、乗るなとは言えない。


「それじゃあ、乗りますか」

「乗ったことがないから、楽しみだ」

「そうなんですか? 金持ちならいくらでも遊びに連れて行ってもらえるもんだと思ってました」

「うちは、母親がいないんだ。それにお父様も忙しい方だからね。パーティなんかにはよく参加していたけど、あまりこういった場所には連れて来てもらっていないんだ」


 なんでもないように話す弥白先輩。それが強がりかどうかなんて、オレには分かるはずもなく……それよりも。


「ま、マジか」

「うん? 本当の話だよ」

「いや、そうじゃなくて。お父様呼びとか、パーティとか、リアルでお嬢様やってるのを見てちょっと興奮してます」

「あ、いや、お父様というのは普段の呼び方でだね! 僕はちゃんと外では父と呼んでいるよ」


 いやいや、寧々音なんて、うちの親父のことを「おい、ヒゲ」ってたまに呼んでいるぞ。

 それに対して、親父は「はーい、寧々たんのヒゲですよー。そーれ、じょーりじょりー」なんてするから、本気でビンタされていますけど。


 同じ娘でもえらい違いだな。まぁ、アレはうちの親父が変っていうのもあるだろうがな。というか、そっちのが大きいか。


 そんな話をしている間にメリーゴーランドが止まり、交代になった。


「どれ乗ります? 白馬や馬車以外にもソリなんかもありますけど」

「やっぱり白馬かなぁ」


 と言って、白馬に乗る弥白先輩。

 すげぇ似合ってる。中性的な綺麗を持ってるだけに王子様にも見えるのだ。


「じゃあ、俺はこっちの馬に……」


 隣の馬に乗ろうとすると、弥白先輩の手が伸びてきて肩を掴まれる。


「これ、二人乗りみたいだよ」

「はぁ……は?」

「せっかくだから、一緒に乗ろうよ」

「いや、それは流石に」


 子供を柵の外から見ている親御さん達にも見られるわけで、恥ずかしすぎる。


「そ、そっか。そうだよね。流石にだよね。僕もちょっと調子に乗っちゃったかな。ごめんね」


 ず、ズリぃ。そこでそういう寂しそうに笑われると断れねぇよ。


「じゃ、じゃあ、後ろ失礼します」

「い、いいのかい?」

「……大丈夫です」


 白馬に俺は後ろ、弥白先輩は前で跨る。多分、顔は真っ赤だ。

 そして、メリーゴーランドは動き始める。


「ふふっ、ふふふっ」

「なんですか、いきなり」

「なんでもないよ」

「そうですか……楽しいですか?」

「うん」


 こちらを見ずにコクリと頷き、スっと体をこちらに預けてきた。


「今日はありがとう」


 ボソリと呟く声。


 こっちこそこんな役得、ありがとうございますだよ!

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