#28
「お疲れだな」
地獄の二連続絶叫マシンのせいで、白目を向いてベンチに座っていると、寧々音が缶ジュースを二本、両手に持ってやって来た。
「次は寧々音か。何して遊びたいんだ?」
「ゲーム」
「ぶれねぇなお前は」
いつも通り過ぎる寧々音が隣に座り、片方のジュースを無言で俺に渡した。
「いいのか?」
「今度なにか奢るんだぞ」
「だろうと思ったよ。ま、サンキュ」
ちょうど喉が乾いていたし、ナイスタイミングだ。
「ンクンク……ぷはぁ」
あー、喉が潤う。しかも俺の好きな飲み物を買ってきてくれる辺り、俺の好みを熟知している家族は本当に助かる。
「にしても、なんだって皆、俺なんかと二人で遊びたがるんだろうな? 皆で遊んだ方が楽しいだろうに」
「輝兄……まぁ、いいや」
「なんでそんな憐れみの目で俺を見てるの?」
お兄ちゃん分かんない。
そんな寧々音は俺から視線を外すと、早々にスマホの画面へと視線を移す。
うーん。せっかく遊びに来たんだから寧々音にも楽しんでもらいたいんだが。今回の企画は弥白先輩が溶け込めるようにするのが目的だが、楽しめるようにという思いもある。
「ふむ……ゲームか。おい、寧々音」
「今忙しい」
忙しいってそれ、戦闘でもコマンドカード押すだけのゲームだろ。
それの原作ならやったことある。
「まぁまぁ寧々音ちゃん。俺と一緒に遊ぼうぜ」
「なんだ、ナンパか?」
「おうよ。まぁ、俺がナンパなんてしても、着いてきてくれるのは寧々音くらいのもんだろう」
「また、そんなこと……。はぁ。いいだろう。何して遊ぶんだ? デュエルするか?」
「ごめん、デッキ持ってないんだ」
「寧々も持ってねーぞ」
じゃあ、なんで聞いた。それに元々、決闘者じゃねぇからな。
というか、どんな場所にもデッキを持ち歩く猛者さんはマジで凄く意識が高いと思うんだ。
「そうじゃなくて、ゲーセンだよ」
「ゲームセンター?」
遊園地ってのはどうしてか、どこにでも小さいゲーセンっぽいのがある。
普段しているゲームとは違うが、アトラクションに乗るよりは寧々音も楽しめるかもしれない。
「さっきの売店近くで見掛けたんだ。行こうぜ」
「……いいだろう」
ということで、ゲーセンへと向かう。
なんというか、この場所だけ時間が止まったように一昔前のゲーム筐体ばかりだ。
だが、それがいい。
「このしょぼい景品の数々。取る気全然起きないけど、めちゃくちゃ取りやすそうな配置のせいで、どうしても百円を投入してしまうんだよな」
「と言いつつ取れないやつ」
「それな」
分かってるよ。でも、入れちゃう。
UFOキャッチャーに百円を投入して、いざ戦闘開始。
「あ、輝兄! それ行き過ぎだぞ!」
「いやいや、見てろ寧々音。この紐のところにアームを引っ掛けるんだ。俺の神エイムで……」
見事にスカッと外した。
「ぶふぉ。神wエイムwww」
腹を抱えて笑うことないだろ……。
これはもう退けない。絶対に取ってやる。
さらに百円を入れて再戦。しかし、またもやミスをする。
「輝兄よ。ゲーセンの負のスパイラルに陥るとは愚かよの」
「うっせぇ」
そして、トライアル・アンド・エラーを繰り返すこと数回……なんとか景品が取れた。
見た目はまったく可愛くない猫のぬいぐるみで、俺が投資した数百円もの価値があるとは到底思えない。フリーマーケットとかで十円くらいで売ってそう。
「ほれ、取れたぞ」
「アホだな」
「アホって言うな」
自分でも分かってるよちくしょう。
とりあえず、俺には必要のない可愛くない猫ぐるみを寧々音に差し出す。
「ん?」
「やるよ。いらん」
「はぁ……本当に馬鹿だな輝兄は」
「んだよ。そんなの言われなくても分かってるっての」
ヤレヤレと首を振る寧々音。
「こういうのはな、他のやつらに渡せばいいんだぞ」
「どうして」
「寧々に渡すよりよっぽど喜んでもらえるからだ」
「だから、どうして」
「こいつマジで言ってんのか。爆発しろ輝兄」
うちの妹の口が悪くなった!?
って、なんで爆発しないといけないんだ。
「よく分からんけど……もし喜んでくれるなら、今は寧々音に喜んで欲しいよ」
「――ッ!」
「っても、こんな不細工な猫じゃ喜びはしないか」
仕方が無いから俺が責任をもって持って帰ろう。
と、思うと、横から奪い取られた。
「馬鹿アホ兄め」
「いきなり罵倒ってなにだ。つーか、貰ってくれるのか?」
「勘違いするなよ? この猫が気に入ったからだぞ」
「お、おう?」
その不細工が気に入ったのか。変なやつだな。まぁ、貰ってくれるならいいや。
不細工な猫ぐるみを胸に抱く寧々音。なんか、ちょっといいな。
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