#27

「し、死ぬかと思った」

「大丈夫ですか? 輝兄さん」

「姫ちゃん。次は姫ちゃん?」


 ジェットコースターから無事生還した俺を待っていたのは姫ちゃんだった。


「はい。それにしても、大変でしたね。輝兄さんは絶叫系……特にジェットコースターは苦手ですのに」


 同情の言葉を掛けながらクスクスと笑う。さては、俺が大変だったのを見て楽しんでいたな。


「さて、そんな輝兄さんをさらに追い詰める為、また絶叫系を……」

「ちょっ、姫ちゃん」


 鬼かこの子! 今、絶叫系乗ったら本当に朝食べた物がリバースしちゃうよ。

 絶望に顔の色を青くしていると、また姫ちゃんが笑う。


「ふふふっ。いえ、冗談です。私も絶叫系は好きではありませんので」

「そ、そう。良かったよ。姫ちゃんも絶叫系は苦手なんだ?」

「私はアレですね。あのバイキングとかいう、前後に激しく揺れる船が特に苦手です」

「アレか」


 船の形をしていて、最初はゆっくりと揺れ、段々激しくなる……。

 あ、思い出しただけでも吐き気がしてきた。


「ということで、私はゆったりと楽しめる物に乗ります」

「ほう。それなら俺も楽しみだ」


 ゆったりと楽しめる……なんて素晴らしい。

 俺はどうやら姫ちゃんをドS少女だなんて誤解していたようだ。


 姫ちゃんに連れられて向かった先には、人工的に造られた川、どうやら遊覧船のようなボートで景色を観るアトラクションのようだ。

 これなら、確かにゆっくりできそう。


 しかも運良く、順番待ちをせずにアトラクションに乗ることが出来た。


「このアトラクションでは濡れることもありますので、こちらの使い捨て雨カッパをお使い下さい」


 と、スタッフにビニール製のカッパを貰い、それを羽織る。

 うん? どうして濡れるんだろうか。


 不思議に思いつつ、二十名くらいが乗れるボートに乗り込む。


「安全のために、バーが下ります。荷物は足元に置いて下さい」


 指示があった通り、安全バーが下ろされ、固定された。

 優雅に観覧するんだよね? だってこれ遊覧船でしょ?


 何故か嫌な予感がしつつ、姫ちゃんを見ると、ニコリと笑顔。


「どうかしましたか? 輝兄さん」

「こんなにしっかりと固定する必要あるのかなーって……思うんだけど」

「船の上で立ち上がったりされると、危ないからじゃないですか?」

「なるほど」


 確かにそれはありうる。子供とかだったらはしゃいで立ち上がりそうだもんな。


「じゃあ、この雨ガッパは?」

「なんでも、このアトラクション、あちらこちらに動物のリアルなロボットが現れるそうなんですが、そこで水を掛けられるとか」

「へぇ……そういうことか」


 納得した。姫ちゃんのすることだからと、疑ってかかってしまったことに若干の罪悪感を感じる。


「それでは出発進行!」


 ボートが発進する。

 すると、さっそく左手にシマウマが見えた。ぎこちなくはあるものの、足が動いたり、首が動いたりして、ちょっと面白い。


「輝兄さん、見てくださいシマウマですよ。シマシマですね!」

「シマウマの感想がシマシマってのは逆に斬新な気がする。まぁ、そうだな。シマシマだ」


 見りゃわかるくらいシマシマだ。


「シマウマの白黒は黒地に白なんですよ」

「マジか!?」

「そしてパンダは白地に黒なんです」

「ほほー、本当に物知りだな、姫ちゃんは。あ、ちょうどパンダ」


 言ってる間に竹をくわえるパンダが現れた。こちらは首だけ動くロボットのようだ。


 ボートは進み、動物達が次々と姿を見せていく。それを和やかに見ていたら突然……。


「あ、輝兄さん! ライオンですよ! ライオン!」

「おぉー、なかなか迫力があるなー」


 と、油断していたら、船に取り付けられたスピーカーから音声で『ライオンの群れに囲まれました。全速力で逃げます』なんて聞こえてきた。


「は?」

「ふふふ。輝兄さん。これは遊覧船ではありませんよ?」

「ほへ?」


 変な声が出てしまう。

 それを待っていたかのように姫ちゃんはニヤリと笑って。


「これ、準絶叫系です」


 と言ってる間に船は速度を上げる。


 そして、先が見えない滝のような場所へ船が突き進み……。


「うぎぁぁぁぁ!」


 やってくれました。というか、やっぱり姫ちゃんは期待を裏切らなかった。俺は期待なんてしてないけど。




 ぐったりした状態で出口から出てくると、姫ちゃんは隣で満足そうな笑顔を浮かべながら。


「輝兄さん」

「なに……?」

「今度は、本物を見に行きましょうね?」

「…………」


 目をぱちくりさせる。


「あっ、そうか。なるほど。みんなでね。てっきり二人でかと思って……」

「二人で、です」

「えっ?」

「行きましょう、ね?」


 姫ちゃんの頬が少し赤らんでいたような気がした。

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