#26

「それじゃあ、まずはアタシだな!」


 離れた場所でジャンケンをしていた輪から和華がピースサインを高く挙げて走ってきた。

 あれは、勝ったからピースなのか、それともチョキで勝ったのだろうか。まぁ、どうでもいい。


 今は……。


「んじゃ、アレに乗ろうぜ! ジェットコースター!」


 脱兎の如く逃げる!

 輝夜は逃げ出した。


「なんで逃げんだよ!?」


 しかし回り込まれてしまった。


「和華。アレはな、人が乗れるもんじゃない」

「いや、乗ってるぜ!? ほら、みんな楽しそうに叫んでるし」


 上を見上げると、ちょうど高所からハイスピードで垂直落下していたジェットコースターから、「きゃあー!」という叫びが聞こえてきた。


「だ、断末魔の叫び……」

「んなわけねぇだろ!?」


 ビシッとツッコミが入る。しかし、別にボケて言ったわけじゃなくてだな。実際に俺にはそう聞こえるのだ。


「んー、輝夜がそんなにビビってんなら違うのにするかー」

「び、ビビってねーし」

「そうなのか?」

「お、おう」


 俺の馬鹿! ビビってますよ。えぇ、もうガクブルです。膝が笑っているからな。

 皆さん、あの乗り物が何に見えますか?

 俺には拷問器具か処刑道具にしか見えないんだが。


「うっしゃあ、行くぜー」


 ガシッと腕を絡められて引きずられる。肘に当たる胸の柔らかいこと。

 って、そんなことを考えている余裕はない。


 このままでは、本当にアレに乗っけられる。

 足を地面に擦ってブレーキをかけると、和華の注意を逸らすことにした。


「おっと、和華。少し待て」

「ん?」

「よく、考えてみろ。ジェットコースターは速いだろ?」

「そうだな。楽しいよな!」

「速ければ、終わるのだって速い」

「うん……うん?」

「その点、アレは凄い」


 指を差す方向には、小さい子向けのミニコースターがある。

 動きはゆっくりで、緩急も少ない。確かにあちらの処刑具……もといジェットコースターよりも断然にコースは短いが、その代わり三周も回ってくれるらしい。

 ほら、幼女が楽しそうにしている。


「いや、流石にアレはなんか違うぞ」

「同じだ」

「違うって!」


 ぬぅ、懐柔作戦失敗か。


「ほら、行くぞ」


 またもやズルズルと引っ張られ始める。こりゃもう無理だ。覚悟を決めるしかないか。


「和華はどうしてそんなにジェットコースターに乗りたいんだ?」

「おう。こないだ、映画見てな」

「ふむ」


 恋愛映画でも見ていたのかな。


「ジェットコースターに乗ってたら死ぬ運命だったんだけど、主人公がその予知夢を見て乗らなかったんだ。でも、その後にジェットコースターに乗りそびれたやつらがバタバタ死んでいくんだよ」

「なんで、そんな映画見てジェットコースター乗りたくなったの? 馬鹿なの?」


 俺の乗りたくない度がさらに高まったんだけど。

 しかもそれ、ホラー映画だよね。俺知ってるよ。グロいので有名だし。


「やー、なんかジェットコースター久々に乗りたいなぁって」


 意味わからん。

 しかし、とうとう列に並び……間も無く順番が回ってきた。

 女性スタッフの誘導の元、処刑具に乗る。そして、拘束具が俺の自由を奪いやがった。


「それでは行ってらっしゃーい」


 そんなスタッフの声は「逝ってらっしゃーい」と勝手に変換されてしまう。


「おー、出発進行!」


 キャッキャッ楽しそうにしている和華の隣で虚ろな目をする俺。

 ゴンドラは早速ゆっくりと坂を登って行く。


「輝夜、大丈夫か?」

「うぅ……実はな、俺はこのジェットコースターが苦手なんだ」

「さっきビビってないって言ってたのに!?」

「ただの強がりです」


 迫り来る恐怖で素直になった俺は包み隠さずに答える。

 すると、突然、ぎゅっと手を握られた。


「じゃあ、手、握っててやるよ。これなら大丈夫だろ?」

「和華……」


 笑顔で言う和華がめちゃくちゃ頼もしく思えた。


 やがてゴンドラは頂点を上り詰め……。


「ぎゃあああああああ!!」


 手を繋いだからって怖いのがなくなるわけねぇぇぇ!

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