#23

『よく来たな。愚かな挑戦者よ。ここを通りたくば我が問いに答えよ!』


 なんだか恐ろしい顔の描かれた扉からそんな声が聞こえてきた。

 それに対して、姫ちゃんが。


「見てください輝兄さん。とてもアホ面です。まるで輝兄さんのよう……」

「俺がアホ面なのは否定しないけど、一応怖い顔設定だから見て笑わないようにね」


 この子はお化け屋敷とか全然入れんちゃうんだろうなぁ。

 茉莉は苦手そう。和華は……まぁ、どっちでもありえそうだ。ちなみに寧々音は平気なフリをしているが、基本的に苦手だからお化け屋敷なんて入ったら引っ付いてくる。


 向こう大丈夫だろうか。


 そういえば弥白先輩はどうなんだろう?


「ふむふむ。真実の口みたいな顔だね。口に手は……入らないや」


 扉の顔をペタペタ触って楽しそうだ。変な人である。


『三連続、正解することでこの扉は開かれよう。答えは扉の横のパネルに書くがよい』


 扉の隣には確かにタッチパネルが置かれ、それ用のペンもある。


「三連続ですか。まぁ、余裕ですね」

「それじゃあ名古君に任せようかな。僕は高みの見物だ」

「そんなことを言って……さては自信がないんですよね? まぁ、大丈夫です。私に任せて頂ければ問題ないです」


 偉く自信満々な姫ちゃん。さて、そんな簡単な問題を出してくれるかな?


『第一問。目は四、鼻は九、口は三、それでは耳は何だ?』


「は?」

「これって……なぞなぞか?」

「みたいだね……」


 常識問題とか、もっとクイズっぽいのを予想していただけに戸惑ってしまう。

 しかも問題の意味が分からない。これは、みんなで考えた方がいいんじゃないだろうか。


「姫ちゃん、一緒に考えようか?」

「大丈夫です。私が答えます」


 パネルには問題も映し出されている。それを食い入るように見ながら姫ちゃんは断った。


「ちなみに弥白先輩は分かりました?」

「うーん。どうだろう」


 正解かは分からないが、何かは掴んでいるような反応だ。

 そんな弥白先輩に姫ちゃんの機嫌がさらに悪くなった気がした。


「目は四……鼻は九? 目は英語でアイ……フォー。これは、違いますね」


 ブツブツと独り言を言う姫ちゃん。それをニマニマしながら見る弥白先輩。この人、こんな時でも人間観察しているよ。

 性格悪いなぁ。


「ヒントをあげようか?」

「いりません!」


 即答で返す。これは姫ちゃんにとって屈辱的だろうな。

 もしかしたら弥白先輩は歩み寄ろうと……いや、違うな。やっぱり楽しんでるよこの人。


「あっ! 分かりました。正解は……兆です」


 ビシッと名探偵よろしく指を差す姫ちゃん。


「え? なんで?」


 意味がわからずに首を傾げる俺。そういや、全然問題の答えを考えていなかった。


「目は視覚。ですので、四。鼻は嗅覚。なので九です。口は味覚で三。ならば耳は聴覚で……兆なのです」

「ほー。弥白先輩の答えはどうなんです?」

「僕も同じ答えだよ」


 俺より頭の良い二人がそう言うなら正解なんだろう。


 意気揚々と姫ちゃんがパネルに答えを書くと……。


『正解だ。次の問題を出すぞ』


 どうやら正解だったらしい。これで一問目。難しい問題ではあるが、この調子ならいける気がする。

 って、簡単にいけたらダメだっての。

 二人に力を合わせてもらうためにこの迷路に入ったんだから。


『第二問。一と四の間にいるのは男か、女か』


「はぁ? こんなの簡単じゃないですか」

「え? マジで? 俺わかんないけど」

「まぁ、輝兄さんですからね。では説明してあげます。一と四の間には何がありますか?」


 ヤレヤレと首を振る姫ちゃん。なんか子供扱いされてるみたいだ。


「二と三?」

「えぇ、そうです。それが答えです」

「はぁ?」


 意味わかんねぇぞおい。


「では、もう一つヒントをあげます」

「もらおうか」

「……なんでそんなに偉そうなんですかね。まぁ、いいです。ヒントは輝兄さん自身です」

「俺?」


 俺は一と四の間に挟まってないんだけど……。

 さらに分からなくなったぞ。


「分かりませんか? よ、よしっ」

「ん? ちょっ――」


 ピトリと体を寄せる姫ちゃん。いきなりのことで驚いて固まる。


「か、輝兄さんの、ことです」

「お、おう?」

「だから、輝兄さん……のことです」


 心臓がバクバク鳴ってうるさい。しかもその胸に姫ちゃんが頭を引っつけるもんだから、絶対に俺のドキドキ伝わってるよ。


「はーい、離れようねー。生徒会長の前で不純異性交遊は許しませーん」

「あぅ」


 弥白先輩が間に入ってグイッと離す。それと同時に閃いた。


「あ……なるほど。二と三……にーさん。男か」

「はい。正解です」


 こちらを見ずに、しかし、ちょっと嬉しそうに言いながら姫ちゃんがパネルに答えを書く。

 対して弥白先輩は「むぅ」と頬を膨らませて俺を睨んでいる。


 どうしようこれ……。


「逢坂君……」

「な、なんでしょうか」

「……か、輝……兄さん」


 ぶふぅ。


「いきなり何を言い出して……」

「逢坂君は歳下の方が好きなのかい?」

「そういうのはないですけど……」


 本当になんなんだ弥白先輩も姫ちゃんも。


『正解だ。では、第三問』


 しかもこの状態で次の問題に行くのかよ。

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